
こんにちは!福岡県筑紫野市二日市にある杏鍼灸整骨院の陣内由彦です。
スポーツをされている方の中には、太ももの付け根、いわゆる鼠径部(そけいぶ)の痛みで悩んでいる方が多くいらっしゃいます。
サッカーやホッケー、ラグビーなど、急な方向転換やキック動作を伴うスポーツで特に起こりやすい症状です。
この鼠径部の痛みは、医学的には「鼠径部痛症候群」や「内転筋関連鼠径部痛」と呼ばれています。
今回は、この症状に対して「ラジオ波治療」(医療現場ではTECAR療法とも呼ばれます)がどのような効果を持つのか、最新の研究をもとに分かりやすくご説明します。
鼠径部痛症候群とは?

どんな症状なのか
鼠径部痛症候群は、グロインペイン症候群とも呼ばれ、スポーツ時に太ももの付け根(鼠径部)やその周辺に痛みが生じる症状の総称です。実は、この症状には様々な原因があり、一つの病名で表すことが難しいため「症候群」と呼ばれています。
痛みの特徴としては、次のようなものがあります。
- 鼠径部、下腹部、太ももの内側などに感じる痛み
- 走る、跳ぶ、キックする、方向転換するときに痛みが強くなる
- 起き上がる動作や立ち上がる動作でも痛むことがある
- 痛みの種類は、鋭い痛み、鈍い痛み、刺すような痛みなど様々
- 慢性化すると、安静時でも鼠径部が常に痛むようになる
特にサッカー選手に多く見られる症状で、年間10〜18パーセント程度の発症率という報告もあります。その他、陸上競技、ラグビー、ホッケー、ウエイトリフティングなどのスポーツでも起こりやすく、20歳前後の男性アスリートに多い傾向があります。
女性がこの付近に痛みがある場合は股関節形成不全を根底にある股関節の器質的疾患が隠れていることが多いです。
なぜ起こるのか
鼠径部痛症候群の原因は、実は一つではありません。様々な要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
大きく分けると、次の3つの要因が背景にあるとされています。
体幹から股関節周辺の機能低下
筋肉や関節の柔軟性が低下したり(可動性の低下)、骨盤を支える筋力が弱くなったり(安定性の低下)、体幹と下肢の動きがうまく連動しなくなったり(協調性の低下)することで、鼠径部に過度な負担がかかります。
過去の怪我やスポーツ動作の癖
以前に足や肩など全身の怪我をしたことがある方は、その影響で身体の使い方が変わってしまい、鼠径部痛を起こしやすくなることがあります。また、サッカーの片足立ちでのキック動作のように、特定のスポーツ動作が原因になることもあります。
繰り返しの負担(オーバーユース)
キック動作やランニング、急な方向転換などの動作を繰り返すことで、鼠径部、股関節周辺、骨盤にメカニカルなストレスが加わり、炎症が生じて痛みとなります。特に、運動量が多すぎたり、フォームが崩れた状態でトレーニングを続けたりすると、発症リスクが高まります。
これらの問題を抱えたまま無理にプレーを続けると、痛みと機能障害の悪循環が生じて症状が慢性化していくと考えられています。
様々な病態が含まれる
2014年のドーハ会議では、鼠径部痛症候群は大きく5つの疾患概念に分類されました。
内転筋関連鼠径部痛
最も多いタイプで、全体の約3分の2を占めるとされています。太ももの内側の筋肉である内転筋やその付着部に問題が生じます。
腸腰筋関連鼠径部痛
股関節を曲げる動作で痛みが出やすく、腸腰筋という筋肉に関連する痛みです。
恥骨関連鼠径部痛
恥骨やその周辺の組織に痛みが生じるタイプです。
鼠径部関連鼠径部痛
鼠径管という部分に痛みがあり、鼠径ヘルニア(スポーツヘルニア)との鑑別が必要です。
股関節関連鼠径部痛
股関節の内部に問題がある場合で、関節唇損傷などが含まれます。
実際には、これらが複数組み合わさっていることも多く、正確な診断が非常に重要になります。
診断と一般的な治療法

診断の難しさ
鼠径部痛症候群の診断は、実は簡単ではありません。前述したように、様々な病態が含まれるため、正確に原因を特定することが重要です。
診断では、以下のような検査が行われます。
問診と身体診察
どのような動作で痛むか、どこに痛みがあるかなどを詳しく聞き取ります。また、鼠径部周辺を押して圧痛があるか、股関節の動きに制限があるかなどを確認します。
画像検査
レントゲン検査で骨に異常がないかを確認します。ただし、レントゲンだけでは診断できない病態も多いため、MRI検査で筋肉や腱の損傷、疲労骨折、股関節内部の問題などを詳しく調べることもあります。
鑑別診断
恥骨疲労骨折、恥骨結合炎、大腿内転筋付着部炎、大腿直筋炎、腹直筋付着部炎、腸腰筋炎、鼠径ヘルニアなど、様々な疾患との鑑別が必要です。これらを完全に区別することは困難なことも多いのが現実です。
従来の治療方法
鼠径部痛症候群の治療は、まず保存療法、つまり手術をしない方法から始めることが一般的です。
具体的には、次のような方法があります。
安静と活動調整
痛みを起こす動作を控え、適切な休息をとることが基本です。ただし、完全に動かないのではなく、痛みの出ない範囲で活動することが大切です。
物理療法
アイシング(急性期の場合)や温熱療法(ホットパックなど)で炎症をコントロールします。また、超音波治療や電気治療なども用いられます。
薬物療法
痛みが強い場合には、抗炎症薬や鎮痛薬を使用することがあります。時には、ステロイドの局所注射が行われることもありますが、腱の弱化リスクがあるため慎重に判断されます。
運動療法とリハビリテーション
最も重要な治療法の一つです。内転筋や股関節周りの筋肉を鍛える運動、ストレッチによる柔軟性の向上、体幹の安定性を高めるトレーニングなどが行われます。
これらの方法は、多くの場合効果が期待できますが、慢性化してしまった痛みに対しては、なかなか十分な効果が得られないこともあります。実際、従来の保存療法だけでは効果が限定的であるという報告もあり、新しい治療法の開発が求められていました。
治療の難しさ
鼠径部痛症候群の治療が難しい理由は、いくつかあります。
慢性化しやすい
一度発症すると、なかなか治りにくいのが特徴です。他の競技と比べてもサッカー選手に多く見られ、一度なると治りにくいことが知られています。実際、この疾患が原因でプロサッカー選手が引退することもあるほどです。
複数の要因が絡み合う
単に一つの筋肉や腱の問題だけでなく、体幹の弱さ、股関節の柔軟性、身体の使い方の癖など、様々な要因が関係しています。そのため、一つの治療法だけでは改善しにくいのです。
動作改善が必要
急性の怪我とは異なり、慢性の疾患であるため、「動作改善」が非常に重要になります。特にキック動作は股関節だけで行われるわけではなく、全身の動きが関係しているため、総合的なアプローチが必要です。
痛みと機能障害の悪循環
痛みがあるとトレーニングができず、トレーニングができないと筋力や柔軟性がさらに低下し、それがまた痛みを悪化させるという悪循環に陥りやすいのです。
このような背景から、痛みを軽減しながら効果的にリハビリテーションを進められる新しい治療法が注目されています。
ラジオ波治療とは?

仕組みを分かりやすく
ラジオ波治療は、高周波の電気エネルギーを体に当てることで、体の深部を温める治療法です。「ラジオ波」という名前がついていますが、ラジオの電波とは異なり、医療用に設計された特殊な電気の波を使います。
具体的には、300K㎐~500K㎐という周波数の電気エネルギーを使うことが多く、この周波数が体の組織に効果的に働きかけることが研究で分かっています。
どのように体に作用するのか
ラジオ波治療が体に及ぼす効果は、大きく分けて三つあります。
一つ目は、温熱効果です。ラジオ波のエネルギーが体の深部に届くと、そこで熱が発生します。この熱によって血流が増え、筋肉や腱の治癒が促進されると考えられています。実際の研究でも、ラジオ波治療後に皮膚や筋肉の温度が上昇し、血液中の酸素飽和度が高まることが確認されています。
二つ目は、筋肉の柔軟性の向上です。温めることで筋肉が柔らかくなり、関節の動きも良くなります。運動後の筋肉の硬さや疲労感を軽減する効果も報告されています。
三つ目は、痛みの軽減効果です。ラジオ波治療は、痛みの信号を伝える神経に働きかけることで、痛みを和らげる可能性があると考えられています。これを「神経調節作用」と呼びます。
安全性について
ラジオ波治療は、体の表面ではなく深部を温めることができるため、やけどのリスクが低いとされています。治療中は温かい感じがする程度で、痛みを伴うことはほとんどありません。
ただし、ペースメーカーを使用している方や妊娠中の方、発熱がある方などは治療を受けられない場合があります。治療を受ける前には、必ず医療従事者に相談することが大切です。
最新研究から分かったこと

2025年の最新研究
2025年1月に発表された非常に新しい研究では、慢性的な鼠径部痛を抱えるアスリートに対して、ラジオ波治療がどのような効果をもたらすかが調査されました。
この研究はランダム化比較試験という医学的に最も信頼性の高い研究方法で行われました。22名のプロのアスリート(平均年齢21.36歳)を二つのグループに分け、一方には本物のラジオ波治療を、もう一方には偽の治療(プラセボ)を行い、その効果を比較しました。
治療期間は6週間で、週に3回、合計18回のセッションが行われました。各セッションは20分間で、448キロヘルツのラジオ波を使用しました。
驚くべき結果
この研究の結果、ラジオ波治療を受けたグループでは、以下のような改善が見られました。
痛みの軽減
治療前と比べて、痛みのレベルが大幅に減少しました。具体的には、視覚的アナログスケール(VAS)という痛みを測る指標で、統計的に有意な改善が見られました。偽の治療を受けたグループと比較しても、明らかに痛みが軽減していることが確認されました。
関節の動きの改善
股関節を内側に閉じる動き、つまり内転運動の可動域が大きく改善しました。これは日常生活やスポーツ動作において、非常に重要な改善といえます。
研究者たちは、「ラジオ波治療は、内転筋関連の鼠径部痛を持つアスリートの痛みを効果的に軽減し、股関節の内転可動域を増加させる可能性がある」と結論づけています。
他の研究からの知見
鼠径部痛に直接焦点を当てた研究は限られていますが、似たような症状に対するラジオ波治療の効果を調べた研究も参考になります。
膝の痛みへの効果
膝蓋大腿疼痛症候群(膝のお皿周りの痛み)に対する研究では、ラジオ波治療を運動療法と組み合わせることで、運動療法だけの場合よりも優れた結果が得られることが分かりました。痛みの軽減だけでなく、膝の機能や生活の質の向上も見られ、しかもその効果は6か月後のフォローアップでも持続していました。
腰痛への効果
慢性腰痛の患者さんを対象とした研究でも、ラジオ波治療は痛みと機能障害の両方を改善することが報告されています。
これらの研究から、ラジオ波治療は筋骨格系の痛み全般に対して、一定の効果が期待できる治療法である可能性が示されています。
なぜ効果があるのか
ラジオ波治療がなぜ鼠径部痛に効果があるのか、そのメカニズムについても研究が進んでいます。
一つは、血流の増加による治癒促進です。ラジオ波によって組織が温められると、血管が広がり、血流が増えます。これにより、損傷した腱に酸素や栄養がより多く届き、治癒が早まると考えられています。
もう一つは、組織の柔軟性の改善です。温熱効果によって、硬くなった筋肉や腱が柔らかくなり、動きやすくなります。これが可動域の改善につながります。
さらに、神経に対する作用も重要です。ラジオ波は、痛みを伝える神経の働きを調整することで、痛みの感じ方を変える可能性があります。これにより、痛みが軽減され、運動療法をより効果的に行えるようになると考えられています。
実際の治療の流れ
どのように行われるのか
ラジオ波治療は、比較的簡単な手順で行われます。
まず、治療を受ける方は楽な姿勢で横になります。鼠径部痛の場合、通常は仰向けの姿勢をとります。
次に、治療する部位にクリームを塗ります。これは、ラジオ波のエネルギーが体にスムーズに伝わるようにするためです。
そして、専用の機器を使って、痛みのある部位にラジオ波を当てていきます。機器の先端を、円を描くようにゆっくりと動かしながら治療を進めます。
治療中は、温かい感じがしますが、痛みはほとんどありません。もし熱すぎると感じたら、すぐに治療者に伝えることが大切です。
一回の治療時間は、研究によれば20分程度です。治療頻度は、週に2〜3回が一般的で、数週間続けることで効果が現れてきます。
運動療法との組み合わせ
重要なのは、ラジオ波治療だけで治すのではなく、運動療法と組み合わせることです。研究でも、最も効果的なのは、ラジオ波治療と適切な運動プログラムを併用することだと示されています。
ラジオ波治療で痛みを軽減し、組織の柔軟性を高めた状態で運動療法を行うことで、より効果的にリハビリテーションを進めることができます。
運動療法では、内転筋の筋力を強化するエクササイズや、股関節周りの筋肉のバランスを整えるトレーニング、体幹の安定性を高める運動などが行われます。
期待できる効果と注意点

どんな方に向いているのか
ラジオ波治療は、特に以下のような方に適している可能性があります。
- 慢性的な鼠径部痛で、従来の治療法では十分な改善が見られなかった方
- スポーツ活動への早期復帰を目指している方
- 痛みのために運動療法を十分に行えていない方
- 手術は避けたいと考えている方
ただし、すべての方に効果があるわけではありません。症状の程度や期間、個人の体質によって、効果には個人差があります。
効果が現れるまでの期間
研究によると、6週間の治療プログラムで効果が見られ始めています。ただし、これはあくまで目安であり、個人によって異なります。
一部の方は数回の治療で改善を感じることもありますし、逆により長い期間が必要な場合もあります。焦らず、継続して治療を受けることが大切です。
注意すべきこと
ラジオ波治療を受ける際には、いくつか注意点があります。
まず、ラジオ波治療だけに頼るのではなく、運動療法やストレッチ、生活習慣の改善など、総合的なアプローチを行うことが重要です。
また、治療中や治療後に痛みが強くなる場合は、すぐに治療者に相談してください。適切な強度や頻度で行うことが大切です。
さらに、ラジオ波治療を受けられない方もいます。前述したように、ペースメーカーや金属製のインプラントを体内に入れている方、妊娠中の方、発熱や感染症がある方などは、治療を受けられないことがあります。
他の治療法との比較
従来の物理療法との違い
ラジオ波治療と似た治療法に、超音波治療や極超短波治療があります。これらも体を温める効果がありますが、ラジオ波治療にはいくつかの利点があるとされています。
一つは、より深い組織まで効果が届くという点です。表面だけでなく、筋肉や腱の深部まで温めることができます。
また、治療中の快適さも特徴です。超音波治療では骨の近くで不快な感じがすることがありますが、ラジオ波治療はそのようなことが少ないとされています。
注射療法との比較
鼠径部痛の治療には、ステロイド注射やPRP注射(多血小板血漿療法)なども用いられることがあります。
注射療法は、即効性がある一方で、効果が一時的であったり、副作用のリスクがあったりします。また、腱に直接ステロイドを注射すると、腱が弱くなって断裂するリスクが高まることも知られています。
ラジオ波治療は、そのような侵襲的な処置に比べて、リスクが低く、繰り返し受けやすいという利点があります。
ただし、症状の重症度や個人の状況によって、最適な治療法は異なります。医師とよく相談して、自分に合った治療法を選ぶことが大切です。
予防と再発防止
鼠径部痛を予防するには
治療で症状が改善した後も、再発を防ぐための取り組みが重要です。
まず、筋力バランスを整えることが大切です。内転筋だけでなく、股関節周りの他の筋肉、特に外転筋(脚を外側に開く筋肉)や臀筋(お尻の筋肉)も鍛えることで、股関節の安定性が高まります。
柔軟性の維持も欠かせません。運動前後のストレッチを習慣にして、筋肉や腱の柔軟性を保ちましょう。
トレーニングの見直し
スポーツを続ける場合、トレーニング内容の見直しも重要です。
急激な負荷の増加は避け、徐々に強度を上げていくことが大切です。週ごとのトレーニング量を前週の10パーセント以上増やさないという「10パーセントルール」が参考になります。
また、適切な休息も必要です。同じ動作を繰り返すスポーツでは、特に回復期間を設けることが重要です。
まとめ
鼠径部痛症候群は、スポーツ選手にとって非常に悩ましい症状ですが、最新の研究によって、ラジオ波治療が有望な治療選択肢の一つであることが分かってきました。
2025年に発表された研究では、ラジオ波治療が痛みの軽減と可動域の改善に効果的である可能性が示されています。特に、慢性的な痛みで従来の治療法では十分な効果が得られなかった方にとって、新しい選択肢となるかもしれません。
ただし、ラジオ波治療は万能ではありません。最も効果的なのは、適切な運動療法と組み合わせて、総合的なリハビリテーションプログラムの一部として活用することです。
また、治療効果には個人差があり、すべての方に同じように効果があるわけではないことも理解しておく必要があります。
鼠径部の痛みでお悩みの方はご気軽にご相談くださいね
またテーピングや怪我に関して疑問がある方は気軽にご質問ください。
参考文献
- BMC Musculoskeletal Disorders (2025): 慢性内転筋関連鼠径部痛を持つアスリートに対するラジオ波治療の効果に関するランダム化比較試験
- Scientific Reports (2024): 慢性腰痛患者におけるラジオ波治療の効果
- International Journal of Hyperthermia (2017): ラジオ波治療が血液酸素飽和度と組織温度に及ぼす影響
- Journal of Biomedical Science and Engineering (2023): ラジオ波治療が体組織に及ぼす効果に関する系統的レビュー
投稿者プロフィール

- 柔道整復師、鍼灸師
-
院長 柔道整復師 鍼灸師
福岡医健専門学校卒業
株式会社セイリン様、株式会社伊藤超短波などでもセミナー活動をしており精力的に鍼灸をひろめようと活動もしております。
陸上競技、ソフトボール、バレーボール、柔道、剣道など様々なスポーツチームの帯同経験多数
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