
こんにちは!福岡県筑紫野市二日市にある杏鍼灸整骨院の陣内由彦です。
バレーボールやバスケットボールをされている方で、膝のお皿の下あたりに痛みを感じたことはありませんか?
ジャンプや着地を繰り返すスポーツで起こりやすい「膝蓋靭帯炎」、別名「ジャンパー膝」と呼ばれる症状について、今回は鍼灸治療がどのように役立つ可能性があるのかを研究論文を基にやさしくご説明していきたいと思います。
膝蓋靭帯炎(ジャンパー膝)とは

膝蓋靭帯炎は、膝のお皿の骨(膝蓋骨)とすねの骨をつなぐ「膝蓋靭帯」という部分に炎症や小さな傷ができてしまう状態です。分かりやすく言うと、膝立ちをしたときに床に当たる、膝のお皿のすぐ下の部分に痛みが出る症状です。
ジャンプを繰り返すスポーツをしている方に多く見られることから「ジャンパー膝」という名前で知られています。
特にバレーボールやバスケットボール、サッカーのゴールキーパーなど、膝に繰り返し負担がかかる競技をされている方によく見られる症状なんです。
なぜ膝蓋靭帯炎は起こるのか

膝蓋靭帯は、太ももの前側にある大きな筋肉(大腿四頭筋)とつながっています。この筋肉が縮んだり伸びたりすることで、膝の曲げ伸ばしができるようになっているのです。
ジャンプや着地、ダッシュやストップといった動作を繰り返すと、太ももの前の筋肉が硬くなってしまいます。硬くなった筋肉は膝蓋靭帯を強く引っ張り続けるため、靭帯に小さな傷ができたり、炎症が起こったりしてしまうのです。
痛みの程度には段階があり、最初は運動後に少し痛む程度ですが、悪化すると運動中も痛みを感じるようになり、さらに進むと日常生活にも支障が出てくることがあります。
鍼灸治療はどのように効果が期待できるのか

それでは、膝蓋靭帯炎に対して鍼灸治療がどのように役立つ可能性があるのか、研究論文から分かっていることを見ていきましょう。
研究1:慢性膝蓋腱炎に対する鍼治療のケーススタディ
海外で報告されたケーススタディでは、慢性的な膝蓋腱炎で苦しんでいた患者さんに鍼治療を行ったところ、痛みが軽減され、リハビリテーションを続けられるようになったことが報告されています。
この研究では、痛みの評価にVAS(視覚的評価スケール)という方法を使用しており、治療前と比べて痛みが明らかに改善したことが示されました。また、VISA(ビクトリアスポーツ評価スケール)という膝の機能を評価する指標でも改善が見られ、日常生活やスポーツ活動での膝の使いやすさが向上したようです。
研究者は、鍼治療が痛みを和らげることで、本来必要な運動療法やリハビリテーションを続けやすくしてくれる可能性を指摘しています。また、鍼が腱そのものに直接働きかけて、組織の回復を促している可能性も考えられるとしています。
研究2:膝蓋腱炎に対する4週間の鍼灸治療
東ヨーロッパで行われた研究では、膝蓋腱炎と診断された15名の患者さんに対して、4週間の鍼灸治療を行いました。治療では、膝蓋腱炎に適した鍼のポイントを使用し、さらに電気鍼(鍼に微弱な電気を流す方法)、お灸、テーピング技術を組み合わせて治療を実施しました。
治療前と治療後にLKSS(ライスホルム膝スコア)という評価方法で膝の状態を測定したところ、統計的に有意な改善が見られたそうです。具体的には、痛みの程度が軽減しただけでなく、膝の動きやすさも改善したことが確認されました。
この研究では、鍼灸治療と理学療法を組み合わせた方が、消炎鎮痛剤と理学療法だけの治療よりも効果的である可能性が示唆されました。
研究3:膝の痛みに対する鍼治療の効果
膝蓋靭帯炎と直接の関連はありませんが、膝の前側の痛み(膝蓋大腿痛症候群)に対する鍼治療の効果を調べたノルウェーの研究では、興味深い結果が報告されています。
この研究では、75名の患者さんを鍼治療を受けるグループと治療を受けないグループに分け、1年間経過を観察しました。その結果、鍼治療を受けたグループでは、膝の痛みと機能を評価するCRS(シンシナティ膝評価システム)のスコアが、治療を受けなかったグループと比べて有意に改善したことが分かりました。
特に注目すべき点は、患者さん3人に鍼治療を行うと、そのうち1人が痛みや活動制限から回復できるという結果が示されたことです(NNT=3.0)。これは、鍼治療が膝の痛みに対して一定の効果を持つ可能性を示す数字と言えるでしょう。
研究4:変形性膝関節症に対する鍼治療の深さの違い
日本の明治国際医療大学で行われた研究では、変形性膝関節症の患者さん26名を対象に、鍼の刺し方の深さによって効果に違いがあるかを調べました。
患者さんを浅く鍼を刺すグループ(約3ミリ)と、深く鍼を刺すグループ(10〜20ミリ)の2つに分け、下肢の圧痛点10カ所に対して10分間の鍼治療を行いました。評価は4週間ごとに、合計4回実施されました。
結果として、痛みの程度はどちらのグループでも改善が見られましたが、興味深いことに、浅く鍼を刺したグループの方が、歩く速さや階段の昇り降り、立ち上がりの動作などの客観的な運動機能が有意に改善したのです。
この研究は変形性膝関節症を対象としたものですが、膝の痛みと運動機能に対して鍼治療が効果を示す可能性を裏付ける重要な研究結果と言えるでしょう。
鍼灸治療はどのように痛みを和らげるのか

ここまでの研究から、鍼灸治療が膝の痛みに対して効果を示す可能性が分かってきましたが、実際にどのようなメカニズムで効果が現れるのでしょうか。
1. 痛みを和らげる物質の分泌
鍼治療を受けると、体の中から「エンドルフィン」という天然の痛み止めの物質が分泌されることが分かっています。エンドルフィンは脳の中で作られる物質で、モルヒネのような強い鎮痛作用を持っています。
鍼で膝の周りのツボを刺激することで、このエンドルフィンの分泌が促され、痛みを感じにくくなると考えられています。
2. 血液の流れを良くする効果
膝蓋靭帯に繰り返し負担がかかると、その部分の血液の流れが悪くなってしまいます。血液の流れが悪くなると、酸素や栄養が十分に届かなくなり、傷ついた組織の修復が遅れてしまうのです。
鍼治療には血液の流れを改善する効果があることが、複数の研究で示されています。鍼を刺すことで、その周りの血管が広がり、血液がより多く流れるようになります。その結果、傷ついた膝蓋靭帯に酸素や栄養が行き渡りやすくなり、組織の修復が促される可能性があるのです。
3. 硬くなった筋肉を緩める効果
膝蓋靭帯炎の大きな原因の一つが、太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)が硬くなることです。硬くなった筋肉は膝蓋靭帯を強く引っ張り続け、炎症を悪化させてしまいます。
鍼治療には、硬くなった筋肉の緊張を緩める効果があると言われています。筋肉の中にある緊張したポイント(トリガーポイント)に鍼を刺すことで、筋肉がリラックスし、膝蓋靭帯への負担が軽減される可能性があるのです。
4. 炎症を抑える効果
最近の研究では、鍼治療に強力な抗炎症効果があることが分かってきました。ハーバード大学の研究者は、鍼治療が特定の神経細胞を刺激することで、体全体の炎症反応を抑える仕組みを発見しました。
膝蓋靭帯炎は「炎」という字が示すとおり、炎症が起こっている状態です。鍼治療によって炎症が抑えられれば、痛みや腫れが軽減される可能性があるのです。
5. 体の自然治癒力を高める効果
東洋医学では、鍼灸治療は体全体のバランスを整え、自然治癒力を高めると考えられています。鍼で特定のツボを刺激することで、気血(エネルギーと血液)の流れが改善され、体が本来持っている回復力が引き出されるという考え方です。
現代医学的な視点から見ても、鍼治療が自律神経のバランスを整えたり、免疫機能を向上させたりする効果があることが研究で示されています。
鍼灸治療を受ける際のポイント
膝蓋靭帯炎に対して鍼灸治療を検討される場合、いくつか知っておいていただきたいポイントがあります。
1. すぐに効果が出るとは限らない
研究でも示されているように、多くの場合、鍼灸治療は複数回受けることで効果が現れてきます。前述の研究では4週間にわたって治療を継続していました。一度の治療で劇的に改善することもありますが、通常は数回から十数回の治療を続けることが必要になる場合が多いようです。
2. 運動療法との組み合わせが大切
鍼灸治療は痛みを和らげ、筋肉の緊張を緩めることで、リハビリテーションや運動療法を続けやすくしてくれる可能性があります。しかし、鍼灸治療だけに頼るのではなく、適切なストレッチや筋力トレーニングを組み合わせることが、症状の改善と再発予防には欠かせません。
特に太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)のストレッチは重要です。硬くなった筋肉を柔らかく保つことで、膝蓋靭帯への負担を減らすことができます。
3. 安静も必要な場合がある
症状が重い場合は、スポーツ活動を一時的に休むことも必要になるかもしれません。痛みがある状態で無理に運動を続けると、症状が悪化してしまう可能性があります。
鍼灸治療で痛みが軽減されたとしても、それは治ったという意味ではありません。医師や鍼灸師と相談しながら、適切なタイミングでスポーツ活動に復帰することが大切です。
膝蓋靭帯炎の予防について

鍼灸治療で症状が改善した後も、再発を防ぐための予防が重要です。
適切なウォーミングアップとクールダウン
運動前には十分なウォーミングアップを行い、筋肉を温めて柔軟性を高めましょう。運動後のクールダウンとストレッチも、疲労した筋肉をケアするために欠かせません。
練習量の調整
症状が出たら、練習量を見直すタイミングかもしれません。急激に練習量を増やしたり、休息日を取らずに練習を続けたりすると、膝への負担が蓄積してしまいます。
特に成長期のお子さんの場合は、骨の成長に筋肉の成長が追いつかないことがあります。年齢や体の状態に合わせた無理のない練習メニューを組むことが大切です。
日常的なケア
ストレッチやセルフマッサージを習慣にすることで、筋肉の柔軟性を保つことができます。特に太ももの前側を伸ばすストレッチは、膝蓋靭帯炎の予防に効果的とされています。
練習後のアイシング(冷やすこと)も、炎症を抑えるために有効な方法です。
まとめ
膝蓋靭帯炎(ジャンパー膝)に対する鍼灸治療について、研究論文を基にご説明してきました。
研究から分かったことをまとめると、以下のような点が挙げられます。
- 鍼灸治療は膝蓋靭帯炎の痛みを軽減させる可能性があります
- 痛みが和らぐことで、リハビリテーションや運動療法を続けやすくなる可能性があります
- 膝の運動機能の改善も期待できる可能性があります
- 血液の流れを良くしたり、筋肉の緊張を緩めたりする効果が考えられています
- 体の自然治癒力を高める可能性があります
ただし、鍼灸治療はあくまでも治療選択肢の一つです。まずは医療機関で正確な診断を受け、医師や鍼灸師と相談しながら、自分に合った治療法を選択することが大切です。
また、鍼灸治療を受ける場合も、適切な運動療法やストレッチ、日常的なケアを組み合わせることで、より良い結果が期待できると思います。
参考文献
- Jeffs P. “Acupuncture for chronic patellar tendinopathy.” Journal of the Acupuncture Association of Chartered Physiotherapists. (2013), 79–86.
- Lence Nikolovska, Bozidar Simic. “Treatment of Patellar tendonitis: Comparison between acupuncture and conservative treatment.” Central and Eastern European Online Library. Available at: https://www.ceeol.com/search/article-detail?id=1023293
- Sangdee C, et al. “Acupuncture treatment of patellofemoral pain syndrome.” Clinical Journal of Sport Medicine. 1999;9(6):338-343.
- 宮本直, 伊藤和憲, 越智秀樹, 他. 「変形性膝関節症に伴う痛みと運動機能に対する鍼治療の効果 – 鍼の刺入深度の違いによる治療効果の検討」全日本鍼灸学会雑誌. 2009;59(4):384-394.
- Zhang BM, Zhong LW, Xu SW, et al. “Acupuncture for chronic achilles tendinopathy: A randomized controlled study.” Chinese Journal of Integrative Medicine. 2013;19:997-1004.
※この記事は研究論文を基にした情報提供を目的としており、医学的アドバイスではありません。膝の痛みがある場合は、必ず医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けてください。
投稿者プロフィール

- 柔道整復師、鍼灸師
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院長 柔道整復師 鍼灸師
福岡医健専門学校卒業
株式会社セイリン様、株式会社伊藤超短波などでもセミナー活動をしており精力的に鍼灸をひろめようと活動もしております。
陸上競技、ソフトボール、バレーボール、柔道、剣道など様々なスポーツチームの帯同経験多数
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