
こんにちは!
福岡県筑紫野市二日市にある杏鍼灸整骨院の陣内由彦です。
今回は足首の捻挫の鍼灸治療について書いていきたいと思います
足首を捻って痛めてしまったこと、ありませんか?階段を踏み外したり、スポーツ中に着地を失敗したり、足首の捻挫は日常生活でもスポーツでも本当によく起こる怪我の一つです。
今回は、足首の捻挫に対する鍼灸治療について、世界中の研究論文から分かってきた効果や、回復のために大切な運動療法について、できるだけ分かりやすくお話ししていきたいと思います。
足首の捻挫とは?基本を知りましょう

足首の捻挫というのは、足首の関節を支えている靭帯という組織が傷ついてしまう怪我のことです。靭帯は骨と骨をつなぐ丈夫な紐のようなもので、関節が安定して動くように支えています。
足首の捻挫の中でも最も多いのが「内反捻挫」というタイプです。これは足首を内側にグキッと捻ってしまうもので、全体の約85パーセントを占めると言われています。この時に傷つきやすいのが、外くるぶしの周りにある「前距腓靭帯」という靭帯です。
捻挫の程度は軽いものから重いものまで様々です。軽く捻った程度のものから、靭帯が部分的に切れてしまったり、完全に断裂してしまったりするケースまであります。程度によって回復にかかる時間も変わってきます。
ただ捻挫は靭帯の損傷で説明をされる事も多いですが関節周りの軟部組織(関節包、筋肉、腱、血管、神経など)も同時に損傷しています。
鍼灸治療の仕組み:体にどんな働きかけをするの?

鍼灸治療では、体の特定のポイント(ツボ)に細い鍼を刺したり、お灸で温めたりすることで、体が持っている自然な治癒力を高めていきます。
具体的には、鍼の刺激によって痛みを和らげる物質(エンドルフィンなど)の分泌が促されると考えられています。また、血流が改善されることで、傷ついた組織に栄養や酸素がしっかり届き、炎症を抑えながら組織の修復が進みやすくなります。
足首周りの筋肉が緊張していると、関節の動きが悪くなったり、痛みが続いたりする原因になります。鍼灸は筋肉の緊張を緩めて、関節の可動域を回復させる効果も期待できると考えられているんです。
研究論文から見えてきた鍼灸の効果

実は、足首の捻挫に対する鍼灸治療については、近年多くの研究が行われています。特に2020年に発表されたシステマティックレビューとメタアナリシスという研究では、17件の臨床試験、1,528人の患者さんのデータが分析されました。
痛みを和らげる効果について
この研究によると、鍼灸治療を受けた患者さんたちは、一般的な応急処置(安静、冷却、圧迫、挙上という「RICE処置」)だけを受けた患者さんと比べて、統計的に有意な痛みの軽減が見られたと報告されています。
さらに興味深いのは、鍼灸とRICE処置を組み合わせた場合、より大きな痛みの軽減効果が得られたという結果です。つまり、鍼灸は他の治療法と併用することで、相乗効果が期待できる可能性があるということですね。
治癒率や回復期間への影響
研究では、鍼灸治療を受けた患者さんの治癒率が高くなる傾向も示されました。また、中国の漢方薬と組み合わせた場合には、痛みの持続期間が短くなり、治癒率がさらに向上したという報告もあります。
ここら辺は中国らしいですよね。
実際の治療の頻度について
多くの研究では、1日1回、週に5日程度の頻度で鍼灸治療が行われていました。治療期間は約9日から11日程度で、おおよそ9回から10回のセッションが一般的でした。ただし、これは研究での設定であり、実際の治療計画は個人の状態に合わせて調整されます。
鍼灸治療の実際:どんな流れで行われるの?
実際に杏鍼灸整骨院で治療を受ける場合、まず詳しい問診が行われます。いつ、どのように怪我をしたのか、今どんな症状があるのか、これまでの病歴や日常生活の様子などを丁寧にお聞きします。
治療では、損傷した靭帯の周辺や、足首周りの筋肉(前脛骨筋、腓骨筋、下腿三頭筋など)に鍼を打つことが多いです。場合によっては、低周波の電気を鍼に流す「電気鍼」や、他の物理療法を組み合わせることもあります。
鍼を刺すと聞くと怖いかもしれませんが、使用する鍼は髪の毛ほどの細さで、多くの方がリラックスした状態で治療を受けられます。治療時間は30分から1時間程度が一般的です。
治療のタイミングについて
捻挫をした直後は、まず患部を冷やして安静にすることが最優先です。急性期の炎症がある程度落ち着いてから、鍼灸治療を開始するのが一般的です。
ただし、慢性化してしまった捻挫の痛みや、何度も繰り返す捻挫に対しても、鍼灸治療が役立つ可能性があるという報告もあります。
運動療法:回復のために欠かせない取り組み

ここからは、足首の捻挫から回復するために非常に大切な運動療法について、詳しくお話ししていきます。鍼灸治療と並行して、適切な運動療法を行うことで、より効果的な回復が期待できます。
なぜ運動療法が必要なの?
捻挫をすると、痛みを避けるために足首を動かさなくなりがちです。その結果、関節が硬くなったり、周りの筋肉が弱くなったりしてしまいます。これが、再び捻挫をしやすくなったり、長引く痛みや不安定感につながったりするんです。
研究によると、足首の捻挫の再発率は50パーセントから70パーセントと非常に高いことが分かっています。適切な運動療法を行わないと、「慢性足関節不安定症」という状態に進行してしまう可能性もあります。
回復の段階に応じた運動療法
運動療法は、怪我の回復段階に合わせて段階的に進めていくことが大切です。

第1段階:急性期(受傷直後から約1週間)
この時期は、まず炎症を抑えることが最優先です。RICE処置(安静、冷却、圧迫、挙上)をしっかり行いましょう。
患部以外の部分、例えば太ももの筋肉や体幹のトレーニングを行うことで、全身の体力低下を防ぐこともできます。患部を直接動かさなくても、他の部分を動かすことで患部への良い影響があるというオーバーフロー効果という考え方もあるんです。
第2段階:亜急性期(約1〜3週間)
炎症が落ち着いてきたら、徐々に関節の動きを回復させるエクササイズを始めます。
足首の可動域を広げる運動:
- 足首回し運動 座った状態や横になった状態で、足を少し上げて円を描くように回します。最初はゆっくり、痛みのない範囲で行いましょう。時計回りに10回、反対回りに10回が目安です。
- 壁押し運動 足を前後に開いて壁の前に立ち、両手を壁につきます。前の膝をゆっくり曲げていき、後ろ足のアキレス腱を伸ばします。この時、後ろ足のかかとは地面から浮かないように注意してください。20秒から30秒キープして、2、3回繰り返します。
- つま先上げ運動 座った状態で、つま先をゆっくり上に向けます。すねの前の筋肉が働いているのを感じながら行いましょう。10回から15回を目安に行います。
足首周りの筋力を少しずつ強化:
- タオルギャザー 床にタオルを広げて、椅子に座って足の指でタオルをたぐり寄せる運動です。足の裏の筋肉と足首の安定性を高めます。1日2、3セット行うと良いでしょう。
第3段階:回復期(約3〜6週間)
この時期になると、より積極的な筋力強化とバランス訓練を始めることができます。
チューブを使った筋力トレーニング:
ゴムチューブやセラバンドを使って、足首の筋肉を鍛えます。
- つま先上げ運動(背屈運動) チューブの一端を固定し、もう一端を足の甲にかけます。つま先を上に向けるようにチューブを引きます。足首全体が動くように意識し、足の指だけの運動にならないよう注意してください。15回×3セットが目安です。
- つま先下げ運動(底屈運動) 両手で持ったチューブを足の裏にかけ、つま先を伸ばすようにチューブを押します。最初は無理に伸ばしきらず、痛みのない範囲で行いましょう。15回×3セットから始めます。
- 足首の外返し運動 両足にチューブを巻き、つま先を外側に開きます。すねの骨が動かないよう注意し、足首だけが動くようにします。ゆっくり戻すことも大切です。15回×3セットが目安です。
バランス訓練:
片足立ちは、足首の安定性を高めるとても効果的な運動です。
- 基本の片足立ち 最初は、壁や椅子の背もたれに軽く手を添えた状態で、患側の足だけで立ちます。30秒キープすることを目標に、徐々に時間を延ばしていきます。
- 目を閉じた片足立ち 基本の片足立ちができるようになったら、目を閉じて行います。これによって、足首の位置感覚(固有感覚)を鍛えることができます。
- 不安定な場所での片足立ち クッションやバランスパッドの上で片足立ちをすると、さらに高度なバランス訓練になります。
かかと上げ運動(カーフレイズ):
- 両足で立ち、ゆっくりとかかとを上げてつま先立ちになります。
- 数秒キープしてから、ゆっくりかかとを下ろします。
- 15回×3セットから始めて、慣れてきたら片足でも行います。
第4段階:競技復帰前期(約6〜9週間)
日常生活に支障がなくなってきたら、スポーツや激しい運動への復帰に向けた準備を始めます。
ジャンプ動作の練習:
- その場での軽いジャンプ 両足で軽くジャンプすることから始めます。着地の衝撃を柔らかく受け止めることを意識しましょう。
- 片足ジャンプ 安定してきたら、片足でのジャンプに進みます。前後、左右の方向も取り入れていきます。
動作訓練:
- ウォーキングからジョギングへ 痛みがなければ、軽いジョギングから始めます。最初は直線的な走りのみを短時間行い、徐々に時間を延ばしていきます。
- 方向転換の練習 ジョギングに慣れてきたら、ジグザグ走や8の字走など、複雑な動きを取り入れていきます。これにより、足首の様々な方向への安定性を高めることができます。
- サイドステップやカリオカステップ 横方向への動きも練習します。サイドステップやクロスステップなど、実際のスポーツ動作に近い動きを取り入れていきましょう。
運動療法を行う上での大切なポイント

痛みを無視しない: 運動中に痛みを感じたら、無理をせずに休憩しましょう。痛みは体からのサインです。「少しくらい」と我慢すると、かえって回復が遅れることがあります。
毎日少しずつ継続する: 短時間でも毎日続けることが、長期的には大きな効果につながります。1日10分から15分でも、継続することが大切です。
正しいフォームを意識する: 間違ったフォームで運動を続けると、他の部位を痛めたり、本来の効果が得られなかったりします。鏡を見ながら行ったり、専門家にチェックしてもらったりすると良いでしょう。
左右のバランスを確認する: 健康な方の足首と比較しながら、動きや筋力に左右差がないか確認しましょう。差が大きい場合は、まだ十分に回復していないサインかもしれません。
段階を飛ばさない: 早く復帰したい気持ちは分かりますが、段階を飛ばすと再発のリスクが高まります。一つ一つの段階をしっかりクリアしてから次に進みましょう。
関節の柔軟性チェック方法
自分の足首の柔軟性をチェックする簡単な方法があります。
しゃがみ込みテスト: 両足を揃えて立った状態から、ゆっくりしゃがんでみてください。この時、両足のかかとが地面についたままでしゃがめれば、足首の柔軟性は良好です。かかとが浮いてしまう場合は、足首が硬くなっている可能性があります。
壁タッチテスト: 壁の前に立ち、片足を前に出します。前足のかかとを地面につけたまま、膝を前に曲げて壁につけられるか試してみてください。つま先と壁の距離を測ることで、数値的に柔軟性を評価できます。
股関節や体幹の重要性
実は、足首の安定性には、股関節や体幹の筋力も大きく関係しています。
お尻の筋肉(殿筋群)を鍛える: 片足立ちで横方向に足を上げる運動や、スクワットなど、お尻の筋肉を鍛える運動も取り入れましょう。これにより、着地時の衝撃を分散し、足首への負担を軽減できます。
体幹トレーニング: プランクなどの体幹トレーニングも、全身のバランスを整える上で効果的です。
再発を防ぐために:日常生活で気をつけたいこと
せっかく治っても、また同じ怪我を繰り返してしまうのは避けたいですよね。再発予防のために、日常生活で気をつけたいポイントをいくつかご紹介します。
運動前のウォーミングアップ: 運動前には必ずウォーミングアップを行い、筋肉や関節を温めてから本格的な動きに入りましょう。
適切な靴を選ぶ: 自分の足に合った、サポート性の高い靴を選ぶことも大切です。特にスポーツをする際は、その競技に適した靴を選びましょう。
疲労を溜めない: 疲れている時や体調が悪い時は、無理をせず休息を取ることも大切な予防策です。
テーピングやサポーターの活用: 特に過去に捻挫の経験がある場合は、運動時にテーピングやサポーターを使用することで、再発リスクを下げることができます。
路面状況への注意: でこぼこした道や、濡れた床など、足を取られやすい場所では特に注意して歩きましょう。
鍼灸治療と運動療法の組み合わせ
鍼灸治療と運動療法は、決して相反するものではありません。むしろ、組み合わせることで相乗効果が期待できると考えられています。
鍼灸治療で痛みを和らげ、筋肉の緊張を緩めることで、運動療法をより効果的に、そして快適に行えるようになる可能性があります。逆に、運動療法で筋力や柔軟性を高めることで、鍼灸治療の効果がより長く持続するかもしれません。
杏鍼灸整骨院では様々な方法で運動療法と組み合わせで行っております。
まとめ:自分に合った回復方法を見つけましょう
足首の捻挫からの回復には、様々なアプローチがあります。鍼灸治療は、研究論文でも一定の効果が示唆されており、選択肢の一つとして考えることができそうです。
ただし、研究にはまだ限界もあり、「絶対に効く」と断言できるものではありません。
最も大切なのは、適切な運動療法をしっかりと行うことです。関節の動きを取り戻し、筋力を回復させ、バランス能力を高めることで、確実な回復と再発予防につながります。
足首の捻挫は、適切なケアと十分な時間をかければ、ほとんどの場合しっかりと回復します。焦らず、でも着実に、一歩ずつ回復への道を歩んでいきましょう。
最後までご覧いただきありがとうございます。
杏鍼灸整骨院の陣内由彦でした。
論文情報:
著者: Liu AF, Gong SW, Chen JX, Zhai JB タイトル: “Efficacy and Safety of Acupuncture Therapy for Patients with Acute Ankle Sprain: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials” 掲載誌: Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine 発表年: 2020年10月16日 巻号: 2020:9109531 DOI: 10.1155/2020/9109531
投稿者プロフィール

- 柔道整復師、鍼灸師
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院長 柔道整復師 鍼灸師
福岡医健専門学校卒業
株式会社セイリン様、株式会社伊藤超短波などでもセミナー活動をしており精力的に鍼灸をひろめようと活動もしております。
陸上競技、ソフトボール、バレーボール、柔道、剣道など様々なスポーツチームの帯同経験多数
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