
スタートダッシュの瞬間太ももの前側に突然走る鋭い痛み。
陸上短距離選手の方なら一度は経験されたことがあるかもしれませんね。
この痛みの原因の多くは「大腿直筋(だいたいちょっきん)」という筋肉の傷みによるものです。
今回の記事では実際に来られた中学生の大腿直筋へのアプローチとなぜ短距離選手がこの筋肉を傷めやすいのかそして近年注目されている「微弱電流(マイクロカレント)」という治療法についてできるだけ分かりやすくご説明していきたいと思います。
太ももの前の筋肉「大腿直筋」とは?

4つの筋肉から成る大腿四頭筋
太ももの前側には「大腿四頭筋(だいたいしとうきん)」と呼ばれるとても大きな筋肉があります。
この筋肉はその名の通り4つの筋肉から構成されていて次のような筋肉で構成されます。
- 大腿直筋(だいたいちょっきん)
- 内側広筋(ないそくこうきん)
- 外側広筋(がいそくこうきん)
- 中間広筋(ちゅうかんこうきん)
この4つの筋肉が力を合わせて膝を伸ばしたりジャンプをしたり走ったりする動作を支えてくれています。
大腿直筋が特別な理由
4つの筋肉の中でも特に「大腿直筋」は少し特別な存在なんです。
どこが特別かというとこの筋肉だけが股関節と膝関節の2つの関節をまたいで付いているという点です。
他の3つの筋肉は膝関節にしか関わっていないのですが、大腿直筋だけは股関節の付け根(骨盤の「下前腸骨棘(かぜんちょうこつきょく)」という場所)から始まって膝のお皿(膝蓋骨)まで長く伸びているんですね。
この構造のおかげで大腿直筋は膝を伸ばす働きだけでなく太ももを前に持ち上げる(股関節を曲げる)働きも担っています。しかもこの構造上力も最大といわれています。
しかし、この2つの関節にまたがっているという特徴が実は傷めやすさにもつながっているのです。
なぜ短距離選手は大腿直筋を傷めやすいのか?
研究から分かった傷めやすい状況
日本体育協会が2008年に発表した肉離れに関する研究報告によるとスポーツによる筋肉の傷みで医療機関を受診した322例のうち約13%が大腿四頭筋の損傷でその中でも大腿直筋が最も多かったことが報告されています。
特に陸上競技の短距離走ではスタート時やダッシュ時に大腿直筋を傷めるケースが非常に多いことが分かっているんですね。
傷めやすい「あの瞬間」

大腿直筋が最も傷めやすいのは、どんな時だと思いますか?それは「股関節が伸びて、膝が曲がっている状態」で強い力を発揮する瞬間なんです。
短距離走のスタートを思い浮かべてみてください。
スタートブロックから飛び出す瞬間、後ろ足は股関節が伸びた状態で膝は曲がっていますよね。
この時大腿直筋は最大限に引き伸ばされながら同時に力強く収縮しようとしているんです。
このように「伸ばされながら力を入れる」という動作を「遠心性収縮(えんしんせいしゅうしゅく)」と言います。
この遠心性収縮の時に筋肉には非常に大きな負担がかかり傷めやすくなるといわれています。
大腿直筋の複雑な構造
さらに、大腿直筋には他の筋肉にはない特殊な構造があります。筋肉の中に「筋内腱(きんないけん)」という腱があり2つの筋肉の束が部位によってねじれながら合わさっているんですね。
この複雑な構造も、大腿直筋が傷めやすい理由の一つと考えられています。
傷めやすい主な原因
研究や臨床報告から大腿直筋を傷める主な原因として次のようなことが挙げられています。
身体的な要因
- 筋肉の柔軟性が不足している
- 筋肉が疲れている状態での運動
- 体内の電解質(ミネラル)のバランスが崩れている
- 十分なウォーミングアップができていない
動作的な要因
- 急激なスタートやダッシュ
- スピードの急激な変化
- 不適切なフォームでの運動
- 強力な筋肉の収縮を繰り返す動作
環境的な要因
- コンディショニング(体調管理)が不十分
- 練習量や練習内容の急激な変更
- 十分な休息が取れていない
大腿直筋を傷めた時の症状
傷めた瞬間の感覚
大腿直筋を傷めた時、多くの方は「ブチッ」という音や筋肉が引っ張られるような感覚を経験されるようです。
すぐに太ももの前側に痛みを感じ走り続けることが難しくなります。
主な症状
傷めた程度によって症状は様々ですが一般的には次のような症状が現れることが多いです。
- 太ももの前面の痛み(特に動かした時の痛み)
- 触ると痛い(圧痛)
- 腫れや熱感
- 皮膚の下の出血(青あざ)
- 膝を曲げにくくなる
- 重症の場合、太ももに凹み(陥凹)が見られることも
回復にかかる期間
傷めた程度によって回復期間は大きく異なります。
- 軽度:1~2週間程度
- 中等度:2~4週間程度
- 重度:4~6週間以上
ただし、適切な初期処置や治療を行わないと回復が遅れたり骨化性筋炎(筋肉の中に骨のような組織ができてしまう状態)などの合併症を起こす可能性もあるため、注意が必要です。
傷めた直後の対処法
RICE処置の大切さ
大腿直筋を傷めた直後の72時間(3日間)の処置が、その後の回復に大きく影響すると考えられています。基本となるのは「RICE処置」と呼ばれる方法です。
R(Rest:安静)
- スポーツを中止して、患部を動かさないようにします
- 無理に動かすと傷みが悪化する可能性があります
I(Ice:冷却)
- アイシングで患部を冷やします
- 炎症や腫れを抑える効果が期待できます
- 15~20分程度を目安に、繰り返し行います
C(Compression:圧迫)
- 適度な圧迫で腫れを抑えます
- ただし、きつく巻きすぎないよう注意が必要です
E(Elevation:挙上)
- 患部を心臓より高い位置に保ちます
- これにより腫れを軽減できます
最近はアイシングの重要性は低くなってきていますが痛みが強い時はアイシングをすることは悪くないことだともいます。
やってはいけないこと
傷めた直後は次のようなことは避けた方が良いでしょう。
- 無理なストレッチ
- 強いマッサージ
- 温める(初期は冷やすことが大切です)
- すぐに運動を再開する
杏鍼灸整骨院で実際の施術
大野城市から来院された中学二年生の陸上選手です。
練習中の走っている動作中に痛みが出て来院されました。
大腿直筋部に圧痛があり膝を曲げるのに痛みがあり来院されました。
今回はIM-2000という微弱電流の最新機器を用いて施術をしております。
受傷直後はこのように微弱電流で炎症の消退をはかりつつ回復を促していきます。
炎症期を過ぎたあたりから微弱電流とラジオ波を組み合わせながら施術をしていくと効果的です。
無事早期に復帰をすることが出来ました。
少し微弱電流について説明をしていきます。
微弱電流(マイクロカレント)療法とは?

身体に優しい電気治療
ここからは近年注目されている「微弱電流療法(マイクロカレント療法)」についてお話ししていきます。
「電気治療」と聞くとピリピリとした刺激を想像される方も多いかもしれません。
しかし微弱電流療法は全く刺激を感じないほど弱い電気を使う治療法なんです。
使用される電流の単位は「μA(マイクロアンペア)」といって、一般的な低周波治療器で使われる電流の100万分の1程度の強さしかありません。
そのため電気特有のピリピリ感がほとんどなく電気刺激が苦手な方でも受けやすい治療法といえるでしょう。
私たちの身体にもともとある「生体電流」

実は、私たちの身体には常に微弱な電気が流れています。これを「生体電流」といいます。
そして身体が傷ついた時にはその傷を治そうとして「損傷電流」という特別な電気が流れることが分かっているんですね。
聖マリアンナ医科大学の藤谷博人主任教授の研究によるとこの損傷電流は傷ついた組織を修復するための身体の自然な反応だということが明らかになっています。
微弱電流療法はこの自然な治癒のメカニズムを利用した治療法なのです。
微弱電流が筋肉の回復を助けるメカニズム

細胞レベルでの修復を促進
微弱電流療法がどのように筋肉の回復を助けるのか研究から分かってきたことをご説明しましょう。
聖マリアンナ医科大学のスポーツ医学講座では約10年にわたって微弱電流の効果を研究してきました。マ
ウスを使った実験ではありますが損傷した筋肉に微弱電流を流すと筋肉の再生が促進されることが世界で初めて分子生物学的に確認されたんです。
ATPの増加
筋肉の修復に欠かせないのが「ATP(アデノシン三リン酸)」という物質です。ATPは私たちの身体のエネルギー源で、細胞が活動するための「燃料」のようなものなんですね。
傷ついた筋肉を修復するためには、たくさんのATPが必要になります。
微弱電流を流すことで細胞内のミトコンドリア(細胞のエネルギー工場)が活性化されATPの産生が増加することが報告されています。
タンパク質の合成促進
筋肉はタンパク質でできています。
傷ついた筋肉を修復するためには新しいタンパク質を作る必要があるんですね。
研究によると微弱電流を使用することで筋肉のタンパク質量の回復が促進されることが確認されています。
つまり、傷ついた筋肉がより早く元の状態に戻ろうとする働きが高まる可能性があるということです。
筋衛星細胞の活性化
「筋衛星細胞」という、筋肉の修復に重要な細胞があります。この細胞は普段は眠った状態で存在していますが、筋肉が傷つくと目覚めて、筋肉を修復する働きを始めるんですね。
研究では、微弱電流刺激によって、この筋衛星細胞が増加し、筋肉の断面積が大きくなることなどが確認されています。これは、損傷した筋肉の再生が促進されていることを示す重要な発見だといえるでしょう。
微弱電流療法の実際の効果
研究で報告されている効果
これまでの研究や臨床報告から微弱電流療法には次のような効果が期待できる可能性が示されています。
組織修復の促進
- 傷ついた筋肉や腱の修復が早まる可能性
- 従来2~3ヶ月かかっていた肉離れが、1~2ヶ月で回復したケースも報告されています
炎症の抑制
- 傷めた直後の炎症を抑える働きが期待できます
- 腫れの軽減にも効果がある可能性があります
痛みの緩和
- 痛みを和らげる効果が期待できます
- 急性期(傷めた直後)から使用できるのが特徴です
スポーツ現場での活用
微弱電流療法は、プロのスポーツ選手やトップアスリートの間で広く使われるようになってきています。
2007年に日本で開催されたアメリカンフットボールのワールドカップでは試合中に捻挫をした選手の患部に微弱電流を当てたところ痛みが早く回復したという報告もあります。
また日本代表のトップアスリートたちが集まる国立スポーツセンター(JISS)でも、肉離れの治療に微弱電流療法が活用されているそうです。
低周波治療との違い
「電気治療」として知られている低周波治療と、微弱電流療法は目的が異なります。
低周波治療
- ピリピリとした刺激があります
- 筋肉を収縮させて血行を促進します
- 主に痛みを和らげることが目的です
- 炎症がある急性期には使いにくい場合があります
微弱電流療法
- ほとんど刺激を感じません
- 細胞レベルでの修復を促進します
- 主に組織の治癒を早めることが目的です
- 急性期(傷めた直後)から使用できます
この2つは作用が異なるため組み合わせて使うことでより高い効果が期待できる可能性もあるといわれています。
微弱電流療法を受ける際の注意点

継続的な治療が大切
研究によると微弱電流は長く当てるほど効果が期待できるとされています。
1日1回、60分程度の治療を継続的に行うことが多いようです。
ただし具体的な治療時間や頻度は傷めた程度や個人の状態によって異なりますので是非ご相談ください。
杏鍼灸整骨院では貸出用の微弱電流機器(有料)もございますのでご相談ください。
他の治療法との組み合わせ
微弱電流療法はあくまでも回復をサポートする治療法の一つです。
完全に治すためには、次のような総合的なアプローチが必要になります。
- 適切な安静期間を守る
- 段階的なリハビリテーション
- 筋力強化トレーニング
- 柔軟性の向上
- フォームの改善
- コンディショニング管理
症状がなかなか良くならない場合は、他の原因が隠れている可能性もありますので、必ず相談するようにしましょう。
予防のために大切なこと

傷めないための心がけ
大腿直筋の損傷を予防するためには日頃からの心がけが大切です。
十分なウォーミングアップ
- 急に激しい運動を始めるのではなく身体を徐々に温めていきます
- 特に寒い時期は入念に行いましょう
柔軟性の維持・向上
- 太ももの前側のストレッチを日常的に行います
- ただし痛めた直後の無理なストレッチは避けてください
筋力バランスの改善
- 太ももの前側(大腿四頭筋)だけでなく、裏側(ハムストリングス)の筋力も重要です
- H/Q比(ハムストリングス/大腿四頭筋の筋力比)が0.6以下だと肉離れのリスクが高まるといわれています
段階的なトレーニング
- 練習量や強度を急に増やさないようにしましょう
- 身体を徐々に慣らしていくことが大切です
コンディショニング管理
- 十分な休息と睡眠を取ります
- 栄養バランスの良い食事を心がけます
- 特にタンパク質やミネラルの補給は重要です
- 疲労が溜まっている時は無理をしないようにしましょう
再発予防の重要性
一度大腿直筋を傷めると、適切な治療とリハビリを行わずに競技に復帰した場合、再発のリスクが高まります。
焦る気持ちは分かりますが、完全に回復してから徐々に運動強度を上げていくことが、長期的に見て競技生活を続けるためには大切なんですね。
まとめ
陸上短距離選手に多い大腿直筋の損傷についてその原因と新しい治療法である微弱電流療法についてご説明してきました。
大切なポイント
- 大腿直筋は傷めやすい筋肉
- 2つの関節にまたがる特殊な構造
- スタート時の遠心性収縮で特に傷めやすい
- 傷めた直後の対処が重要
- RICE処置を徹底する
- 無理なストレッチや運動は避ける
- 微弱電流療法は有望な治療法
- 身体の自然な治癒メカニズムを利用
- 細胞レベルでの修復を促進する可能性
- 急性期から使用できる
- ただし、専門家の指導のもとで行うことが望ましい
- 予防と総合的なケアが大切
- 日頃からの身体のケアが重要
- 微弱電流療法だけに頼らず、総合的なアプローチを
最後に
筋肉の傷みはスポーツをされる方にとって大きな悩みですよね。
焦る気持ちもあるかと思いますが適切な治療と十分な回復期間を確保することが長期的に競技を続けるためには何より大切です。
微弱電流療法はまだ研究段階の部分もありますが多くの研究や臨床報告で効果の可能性が示されている治療法です。
もし太ももの前側を傷めてしまった場合はこの治療法について検討することは一つの選択肢だと思います。
大切なのは自己判断せずに、是非スポーツのけがの専門家の杏鍼灸整骨院にご相談下さい!
最後までお読みいただきありがとうございます。
また当院で行っている施術やテーピング方法などをInstagramやYouTubeなど各種SNSにアップしていますので気になる方は是非見てみてください。
参考文献
本記事は、以下の研究報告や文献を参考にしています。
- 平成20年度 日本体育協会スポーツ医・科学研究報告「肉離れに関する最新の指針」
- 聖マリアンナ医科大学雑誌「スポーツにおける微弱電流刺激療法」
- 日本理学療法士協会「マイクロカレントによる損傷骨格筋再生促進メカニズムの検討」(第49回日本理学療法学術大会)
- 聖マリアンナ医科大学「スポーツへの早期復帰の挑戦 -微弱電流-」(2019年)
投稿者プロフィール

- 柔道整復師、鍼灸師
-
院長 柔道整復師 鍼灸師
福岡医健専門学校卒業
株式会社セイリン様、株式会社伊藤超短波などでもセミナー活動をしており精力的に鍼灸をひろめようと活動もしております。
陸上競技、ソフトボール、バレーボール、柔道、剣道など様々なスポーツチームの帯同経験多数






