
こんにちは!福岡県筑紫野市二日市にある杏鍼灸整骨院の陣内由彦です。
「走っているときに、急に足に力が入らなくなる」「足がまっすぐ前に出せない」「自分の意思とは関係なく足が暴れてしまう」
こうした症状でお悩みのランナーの方は、もしかすると「ぬけぬけ病」と呼ばれる状態かもしれません。
ちなみにこの言葉は俗称ですので医学的にある訳ではありません。
特に長距離を走る方に多く見られるこの症状は、痛みがないのに思うように走れないという、とても辛い状態です。
今回は、このぬけぬけ病について、そして鍼灸治療がどのように役立つ可能性があるのかを、最新の研究論文をもとに、できるだけ分かりやすくお伝えしていきたいと思います。
ぬけぬけ病とは何か

正式な医学名は「局所性ジストニア」!?
「ぬけぬけ病」という呼び名は、実は医学的な正式名称ではありません。ランナーの間で使われている通称なんです。医学的には「局所性ジストニア」や「動作特異性局所ジストニア」と考えられています。
他にも「カックン病」「ローリング病」「ランナーズジストニア」など、いくつかの呼び方があります。
これは、症状の出方が人によって違うため、それぞれの感じ方や地域で呼ばれているからなのかもしれませんね。
どんな症状なのか

ぬけぬけ病の症状は、人それぞれに違いが見られます。主な症状としては以下のようなものがあります。
- 走っているときに、急に足の力が抜けてしまう
- 足をまっすぐ前に出したいのに出せない
- 足が外側や内側に引っ張られる感じがする
- 足が棒のように硬くなってしまう
- ふわふわと足が浮いているような感覚になる
- 足の出し方のリズムが左右で違ってしまう
特徴的なのは、強い痛みがあるわけではないということです。それなのに、思うように走れないという、もどかしさを感じる症状なんですね。
病院で検査を受けても、レントゲンやMRIなどの画像検査では異常が見つからないことが多く、「気持ちの問題では?」と言われてしまうこともあるようです。
でも、実際には体がコントロールできない状態になっているので、決して気のせいではありません。
なぜ起こるのか

ぬけぬけ病の原因は、まだ完全には解明されていません。ただ、研究が進むにつれて、いくつかのことが分かってきました。
最も有力な考えとしては、脳や神経が筋肉を動かす指令に「誤作動」が起きているのではないか、ということです。
長い期間、同じ動作を何度も何度も繰り返すことで、脳の中で「この動きはこうする」という学習が間違った形で定着してしまうと考えられています。
研究では、以下のような共通点が見つかっています。
怪我の経験がある方が多い
症状が出る前に、何らかの怪我をしている方がとても多いんです。怪我をかばいながら走り続けることで、本来の走り方とは違うフォームが体に染み付いてしまい、それがぬけぬけ病につながる可能性があると考えられています。
脱力が苦手な傾向がある
ぬけぬけ病の方の多くは、日常的にいつも体に力が入っている傾向があるそうです。本人は気づいていないことも多いのですが、常に緊張状態にあるんですね。すでに緊張している筋肉をさらに動かそうとすると、より強い力が必要になり、筋肉が疲れ果ててしまいます。
真面目で一生懸命な方が多い
練習に対して真剣に取り組む方ほど、かかりやすい傾向があるようです。体の違和感があっても、「もっと頑張らなきゃ」と無理をしてしまい、症状が進んでしまうケースが少なくありません。
鍼灸治療の可能性 〜研究から分かってきたこと〜

ぬけぬけ病のようなジストニアに対して、鍼灸治療がどのような効果を持つのか、実は世界中で研究が行われています。ここでは、信頼度が高い医学論文から分かってきたことをご紹介します。
首のジストニアへの鍼灸治療の研究結果
ぬけぬけ病と同じ「局所性ジストニア」の仲間に、首が勝手に曲がってしまう「頚部ジストニア」というものがあります。この頚部ジストニアに対する鍼灸治療の研究が、参考になります。
2018年にアメリカで行われた研究では、頚部ジストニアの患者さん5名に対して、ボツリヌス毒素という注射治療に加えて、鍼灸治療を併用したそうです。3ヶ月の間に6回の鍼治療を受けてもらったところ、参加した全員が「症状が改善した」と報告しました。
特に注目すべきは、痛みが軽くなったという点です。患者さん自身の感覚として、生活の質が向上したと感じられたそうです。
この研究では、研究者たちが「鍼灸は慢性の頚部ジストニアに対する補助療法として、実行可能で安全であり、主観的な症状緩和に役立つ可能性がある」と結論づけています。
別の研究でも同様の結果が
中国の研究では、37歳の女性の頚部ジストニアの患者さんが、手術やボツリヌス注射を拒否して、鍼灸治療のみで対応したケースが報告されています。
2クールの治療の後、頭の位置が正常に戻り、不安やうつといった精神的な症状も改善したそうです。この症例では、症状が強く出ている側の筋肉には強めの刺激を、健康な側には弱めの刺激を与えるという工夫がされたそうです。
ジストニア全般に対する鍼灸の効果
2025年に発表された総合的なレビュー論文では、さまざまなタイプのジストニアに対する鍼灸治療の効果が検討されました。この論文では、以下のようなことが述べられています。
- 鍼灸治療は症状を和らげる可能性がある
- 筋肉の緊張(こわばり)を減らす効果が期待できる
- 患者さん全体の状態を改善する可能性がある
- ただし、ジストニアのタイプや重症度によって効果には違いがある
研究者たちは、「痛みや精神的なストレスを軽くする面では、一定の有用性が示されている」と述べています。
筋肉の活動を測定した研究
ある研究では、筋肉の電気的な活動を測定する装置(筋電図)を使って、鍼治療の効果を調べました。その結果、浅い位置に鍼を刺すことで、過剰に活動していた筋肉の活動が減少したことが確認されたそうです。
これは、鍼が実際に筋肉の緊張を和らげる効果があることを、科学的に示す一つの証拠といえるかもしれません。
東洋医学的な考え方
鍼灸治療では、東洋医学の考え方に基づいて治療を行います。東洋医学では、体の震えや勝手に動いてしまう症状は、体の中で「風」が起きていると考えます。これを「内風」といいます。
特に「肝(かん)」という概念が重要で、肝は体の筋肉や腱の動きをコントロールしていると考えられています。ストレスや過労で肝が弱まると、筋肉や腱に異常が起きやすくなると考えるんですね。
そのため、鍼灸治療では、肝に関連するツボ(経穴)を使うことが多いです。また、自律神経を整えるためのツボも組み合わせて使います。
鍼灸治療の実際の方法

どんな治療をするのか
ぬけぬけ病に対する鍼灸治療では、以下のようなアプローチが考えられます。
筋肉の緊張をほぐす 過度に緊張している筋肉を見つけて、そこに関連するツボに鍼を刺します。直接その筋肉に刺すのではなく、その筋肉につながる経絡(エネルギーの通り道と考えられているもの)上のツボを使うことが多いです。
弱っている筋肉を活性化する 逆に、力が入らなくなっている筋肉に対しては、その働きを高めるようなツボを使います。ぬけぬけ病では、一部の筋肉は硬くなりすぎている一方で、別の筋肉は弱くなっているということがよくあります。このバランスを整えることが大切なんですね。
全身のバランスを整える 東洋医学では、体の一部の問題も、全身のバランスの崩れから来ていると考えます。ですから、足だけではなく、全身のツボを使って治療することが多いです。
ストレスや精神的な緊張を和らげる ぬけぬけ病の方の多くは、「また症状が出たらどうしよう」という不安を抱えています。この精神的な緊張も症状を悪化させる要因になります。鍼灸治療には、心を落ち着かせる効果も期待できます。
治療の頻度と期間
研究論文では、週に2〜3回の治療を、数ヶ月間続けたケースが多く報告されています。ぬけぬけ病は、長い時間をかけて体に染み付いてしまった状態ですから、改善にもある程度の時間が必要になることが多いです。
ただし、症状の程度や個人差によって、必要な治療回数や期間は変わってきます。早い方では数週間で変化を感じることもあれば、数ヶ月かかる方もいらっしゃいます。
杏鍼灸整骨院でもそのような回数で行っていきます。
日常生活で気をつけること

鍼灸治療を受けるだけでなく、日常生活での工夫も大切です。
十分な休養を取る
「練習を休むと、もっと走れなくなる」という不安があるかもしれません。でも、疲労が蓄積した状態では、症状は改善しにくいのです。思い切って休むことも、治療の一部と考えましょう。
ストレスを減らす
精神的なストレスやプレッシャーは、症状を悪化させることがあります。リラックスできる時間を作ったり、好きなことをしたりする時間も大切にしてください。
体を温める
お風呂にゆっくり入ったり、温かい飲み物を飲んだりして、体を温めることも効果的です。血行が良くなることで、筋肉の緊張がほぐれやすくなります。
無理をしない
「今日は調子が悪いな」と感じたら、無理に走らないことも大切です。自分の体の声に耳を傾けましょう。
希望を持って
ぬけぬけ病は、確かに治療が難しい状態です。でも、決して治らないわけではありません。実際に、適切な治療とケアによって、症状が改善し、また走れるようになった方もたくさんいらっしゃいます。
鍼灸治療は、そうした回復への道のりの中で、有効な選択肢の一つになり得ます。特に、痛みを和らげたり、精神的な不安を軽くしたり、全身のバランスを整えたりする面で、役立つ可能性があります。
大切なのは、一人で抱え込まずに、専門家の力を借りること。そして、焦らずに、じっくりと向き合っていくことです。
あなたがまた、楽しく走れる日が来ることを、心から願っています。
まとめ
- ぬけぬけ病(局所性ジストニア)は、脳や神経の誤作動によって起こると考えられている
- 鍼灸治療は、筋肉の緊張を和らげ、痛みを軽くする可能性がある
- 研究では、患者さんの主観的な改善が報告されている
- ただし、科学的な証拠はまだ十分ではなく、さらなる研究が必要
- 鍼灸治療は、他の治療法と組み合わせることで、より効果的かもしれない
- 焦らず、継続的に取り組むことが大切
参考にした主な研究論文
- Bega et al. (2018) “Acupuncture as Adjuvant Therapy for the Management of Cervical Dystonia” Medical Acupuncture
- Wang et al. (2025) “Dystonia: pathophysiology and the role of acupuncture in treatment”
- Zhang et al. (2024) “Acupuncture for cervical dystonia associated with anxiety and depression: A case report”
- IntechOpen (2023) “Acupuncture Treatment for Dystonia”
投稿者プロフィール

- 柔道整復師、鍼灸師
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院長 柔道整復師 鍼灸師
福岡医健専門学校卒業
株式会社セイリン様、株式会社伊藤超短波などでもセミナー活動をしており精力的に鍼灸をひろめようと活動もしております。
陸上競技、ソフトボール、バレーボール、柔道、剣道など様々なスポーツチームの帯同経験多数
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