肘の痛みに鍼灸は効くの?研究から分かる効果と可能性

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こんにちは!福岡県筑紫野市二日市にある杏鍼灸整骨院の陣内由彦です。

肘が痛くて、物を持つのもつらい。タオルを絞ろうとすると、肘の外側にピリッと痛みが走る。こうした経験はありませんか?

実は肘の痛み、特に「テニス肘」と呼ばれる症状でこの痛みに悩んでいる方は思いのほか多く、スポーツをする方だけでなく、パソコン作業が多い方や、家事で手をよく使う方にもよく見られる症状なんです。

今日は、肘の痛みに対して鍼灸治療がどのような効果を持つのか、研究論文で明らかになっていることをできるだけ分かりやすくお伝えしていきたいと思います。

目次

テニス肘ってどんな症状?

まずは「テニス肘」について、簡単にご説明しますね。

テニス肘は、正式には「上腕骨外側上顆炎(じょうわんこつがいそくじょうかえん)」という名前がついています。

少し難しい名前ですが、要するに肘の外側にある骨の出っ張り部分と、そこにつながる筋肉炎症を起こしている状態と考えられています。

テニスをする方に多く見られることから「テニス肘」と呼ばれるようになったのですが、実際にはテニスをしていない方にもとてもよく起こります。

むしろ、日常生活での腕の使いすぎで発症する方のほうが多いんですよ。

こんな動作で痛みを感じることが多いです

  • 物を持ち上げようとしたとき
  • ドアノブを回すとき
  • タオルや雑巾を絞るとき
  • 瓶のふたを開けるとき
  • コップに水を注ぐとき
  • パソコンのマウスを長時間使ったあと

特に30代から50代の方に多く見られ、女性にやや多い傾向があります。これは、家事や育児、仕事で手や腕を酷使することが関係していると考えられています。

なぜ肘が痛くなるの?原因を知っておこう

肘の痛みの原因は、主に「使いすぎ」です。

手首を反らしたり、手を握ったりする動作を繰り返すと、それを行うための筋肉が肘の外側の骨につながっている部分に、少しずつ負担がかかっていきます。

この負担が積み重なると、筋肉や腱に小さな断裂や炎症が起こってしまうんですね。

さらに、年齢とともに筋肉や腱の弾力性が低下することも、痛みが起こりやすくなる要因の一つです。

また、肩や首の筋肉が硬くなっていたり、姿勢が悪かったりすると、肘への負担が増えてしまうこともあります。

肘だけの問題ではなく、体全体のバランスが関係していることも多いんですよ。

鍼灸治療は肘の痛みに効果があるの?研究から分かること

さて、ここからが本題です。鍼灸治療は本当に肘の痛みに効果があるのでしょうか?

実は、世界中で多くの研究が行われていて、その効果について科学的な検証がなされています。いくつかの重要な研究をご紹介しますね。

大規模な研究のまとめから分かること

2020年に発表された研究では、テニス肘に対する鍼灸治療の効果を調べた10件の研究(合計796人の患者さん)をまとめて分析しています。

この分析によると、鍼灸治療は以下のような結果を示しました:

  • 偽の鍼治療と比べて: 鍼灸治療のほうが痛みの軽減効果が認められる傾向
  • 薬物治療と比べて: 鍼灸治療のほうが効果が高い可能性
  • 注射療法と比べて: 鍼灸治療のほうが良い結果が得られる傾向

つまり、鍼灸治療は肘の痛みに対して、一定の効果が期待できるということが分かってきているんです。

痛みの軽減だけじゃない!機能の改善も

ドイツで行われた研究では、慢性的なテニス肘を持つ45人の患者さんを対象に、本物の鍼治療と偽の鍼治療を比較しています。

週に2回、合計10回の治療を行った結果、本物の鍼治療を受けたグループでは:

  • 痛みが大きく軽減された
  • 腕の機能が改善された
  • 握る力(握力)が向上した

特に注目すべきは、治療終了後2週間の時点で、これらの改善がはっきりと見られたことです。2ヶ月後の追跡調査でも、腕の機能の改善は続いていたそうです。

超音波検査でも変化が確認された研究

さらに興味深いのは、超音波検査を使って腱の状態を調べた研究です。

41人の患者さんを対象に、鍼灸治療を受けるグループと受けないグループに分けて比較したところ、鍼灸治療を受けたグループでは:

  • 痛みが軽減した
  • 患部を押したときの痛み(圧痛)が減った
  • 腕の機能が改善した
  • 腱の厚さが薄くなった(炎症が改善したサイン)

腱の厚さが薄くなったということは、炎症が実際に改善したことを示しています。これは、鍼灸治療が単に痛みを感じにくくしているだけでなく、組織レベルで治癒を促している可能性を示唆しているんですね。

日本の研究データも

日本の全日本鍼灸学会でも、テニス肘(上腕骨外側上顆炎)に対する鍼治療の研究が発表されています。

この研究では、平均年齢49歳の患者さんに対して、鍼治療と前腕のストレッチを併用して行ったところ:

  • 平均6.5回の治療で効果が見られた
  • 痛みのレベル(VAS)が10から1になった方が15%
  • 痛みのレベルが10から2〜5になった方が77%
  • 合わせて92%の方に効果が認められた

このように、日本国内でも良好な治療成績が報告されているんですよ。

※偽の鍼治療とはシャム鍼といって皮膚に刺入しない鈍い先端の鍼を使ったり、ツボではない場所に当てたりして、プラセボ効果(偽薬効果)や非特異的効果(触れるだけの効果)を評価するために用いられ、鍼治療が本当に特定の効果を持つのかを科学的に証明するのに役立つ方法です。 

鍼灸治療はどうして肘の痛みに効くの?

では、なぜ鍼灸治療が肘の痛みに効果があるのでしょうか?いくつかのメカニズムが考えられています。

1. 血流が良くなる

鍼を刺すと、その周辺の血管が広がって血流が良くなります。血液の流れが良くなると:

  • 痛みの原因となる物質が流れ去る
  • 酸素や栄養が患部にしっかり届く
  • 老廃物が排出されやすくなる
  • 組織の修復が進みやすくなる

筋肉が硬くなると血管が圧迫されて、交通渋滞のような状態になってしまいます。鍼治療はこの渋滞を解消してくれる役割があるんですね。

2. 筋肉の緊張がほぐれる

肘の痛みの多くは、前腕の筋肉が過度に緊張していることが原因の一つです。

鍼を刺すことで、硬くなった筋肉がゆるんでいきます。筋肉の緊張が和らぐと、肘にかかる負担も減り、痛みが軽くなります。

また、肘だけでなく、肩や首、背中の筋肉の緊張も和らげることで、腕全体の動きがスムーズになり、肘への負担をさらに軽減できます。

3. 痛みを感じにくくする作用

鍼を刺すと、体内で「エンドルフィン」という天然の痛み止め物質が放出されます。これは、体が自分で作り出す鎮痛剤のようなものです。

また、鍼の刺激が脳に伝わることで、痛みの信号をブロックする「ゲートコントロール理論」という仕組みも働くと考えられています。

これは、転んで膝をぶつけたときに「痛いの痛いの飛んでいけ」と言いながらさすると少し楽になる、あの現象と似たメカニズムなんですよ。

4. 炎症を抑える効果

鍼治療には、炎症を抑える効果があることも分かってきています。

患部にお灸を使うこともあり、適度な温熱刺激が炎症を鎮める働きを促すと考えられています。

また、鍼刺激によって体の免疫機能が適切に働くようになり、炎症が自然に治まっていくことも期待できます。

5. 全身のバランスを整える

東洋医学の考え方では、肘の痛みは肘だけの問題ではなく、体全体のバランスの乱れが関係していると考えます。

鍼灸治療では、患部だけでなく、自律神経を整えたり、ホルモンバランスを改善したりすることで、体の自然治癒力を高めていきます。

特に中高年の方の場合、ホルモンバランスの変化で筋肉や腱が弱くなっていることもあるので、全身を調整することが大切になってくるんですね。

実際の治療はどんな感じ?

鍼灸治療を受けたことがない方は、どんな治療をするのか気になりますよね。

肘の痛みに対する一般的な鍼灸治療の流れをご紹介します。

カウンセリングと検査

まず、どんなときに痛むか、いつから痛いか、どんな生活をしているかなど、詳しくお話を聞きます。

それから、肘の動きや痛む場所、筋肉の硬さなどを丁寧に確認していきます。

ツボの選定

肘の周りには、いくつか重要なツボがあります:

  • 曲池(きょくち): 肘を曲げたときにできるシワの外側
  • 手三里(てさんり): 曲池から少し下
  • 肘髎(ちゅうりょう): 肘の外側
  • 尺沢(しゃくたく): 肘を曲げたときのシワの内側

患部の状態や症状に応じて、これらのツボや、痛みの強い部分に鍼を刺していきます。

また、肩や首、背中のツボも使って、全身のバランスを整えることも大切です。

治療の実際

  • 髪の毛ほどの細い鍼を使います
  • 患部に炎症があるときは、直接鍼を刺さずに周辺から治療することもあります
  • お灸を併用して、炎症を抑えることもあります
  • 電気を流す「電気鍼(パルス鍼)」を使うこともあります
  • 治療時間は30分から1時間程度が一般的です

治療回数の目安

研究によると、週に2〜3回程度の治療を行うことが多いようです。

症状の程度によって個人差はありますが:

  • 軽い症状の方: 3〜5回程度
  • 中程度の症状の方: 6〜10回程度
  • 重い症状の方: それ以上の回数が必要なこともあります

大切なのは、痛みが少し良くなったからといってすぐにやめてしまわないこと。

痛みが無くなった=治ったではない事も多いです。

症状が軽くなると通院の回数も減らしていきます。

鍼灸治療を受けるときの注意点

鍼灸治療は比較的安全性の高い治療法ですが、いくつか注意点もあります。

こんなときは事前に相談を

  • 急性期で腫れや熱感が強いとき
  • 抗凝固薬(血液をサラサラにする薬)を飲んでいるとき
  • しびれなど神経症状があるとき
  • 妊娠中の方
  • 他の病気で治療中の方

治療後の注意

  • 治療後1〜2日は、一時的に痛みが強くなることがあります(好転反応)
  • 治療当日は、激しい運動や飲酒は控えましょう
  • 痛みを我慢して無理をしないことが大切です
  • 適度な休息を取りましょう

鍼灸治療と一緒にできるセルフケア

鍼灸治療の効果をより高めるために、自宅でもできるセルフケアを併用することをおすすめします。

1. 適度な安静

痛みが強いときは、無理をせず休むことが大切です。痛みを我慢して使い続けると、かえって悪化してしまいます。

かといっても休めない事もあります。その際はテーピングやサポーターなどで患部の安静をはかるのも大事です。

2. アイシング

急性期(痛みが出始めて間もないとき)で、腫れや熱感があるときは、氷を入れた袋をタオルで包んで、15分程度冷やすと良いでしょう。

3. ストレッチ

前腕の筋肉を優しくストレッチすることで、筋肉の柔軟性が高まります:

  • 手のひらを下に向けて腕を伸ばし、反対の手で指先をゆっくり手前に引く
  • 手のひらを上に向けて腕を伸ばし、反対の手で指先をゆっくり下に押す
  • 無理のない範囲で、20〜30秒キープします

4. 姿勢の改善

パソコン作業が多い方は、姿勢に気をつけましょう:

  • デスクの高さを調整する
  • 肘が90度になるようにする
  • 肩が前に丸まらないように意識する
  • こまめに休憩を取って腕を休ませる

まとめ

ここまで、肘の痛みに対する鍼灸治療の効果について、研究論文から分かることをお伝えしてきました。

研究から分かったことをまとめると:

  • 複数の研究で、鍼灸治療の効果が認められていると考えれます。
  • 痛みの軽減だけでなく、腕の機能改善も期待できます
  • 超音波検査で確認できるレベルの組織の改善も報告されています
  • 週2〜3回、合計6〜10回程度の治療で効果が見られることが多いです
  • 薬物治療や注射療法と比べても、良い結果が得られる可能性があります

ただし、すべての研究が完璧というわけではなく、今後もより質の高い、大規模な研究が必要とされています。

それでも、現時点での科学的な証拠からは、鍼灸治療は肘の痛みに対する有力な選択肢の一つと言えそうです。

こんな方に鍼灸治療はおすすめです

  • 病院でなかなか良くならなかった方
  • 薬に頼りたくない方
  • 痛み止めの注射に抵抗がある方
  • 根本から体質を改善したい方
  • 副作用の少ない治療法を探している方

肘の痛みは、放っておくと日常生活に大きな支障をきたしてしまいます。「そのうち治るだろう」と我慢せず、早めに専門家に相談することが大切です。

最後までご覧いただきありがとうございます。

杏鍼灸整骨院の陣内由彦でした。


参考文献

  • Fink M, et al. Acupuncture in chronic epicondylitis: a randomized controlled trial. Rheumatology. 2002.
  • Zhou Y, et al. Effectiveness of Acupuncture for Lateral Epicondylitis: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Pain Research and Management. 2020.
  • 全日本鍼灸学会 上腕骨外側上顆炎に対する鍼治療の効果

本記事の内容は、科学的な研究に基づいた情報提供を目的としています。個別の症状や治療については、必ず医療機関や専門家にご相談ください。

投稿者プロフィール

陣内由彦
陣内由彦柔道整復師、鍼灸師
院長  柔道整復師  鍼灸師

福岡医健専門学校卒業

株式会社セイリン様、株式会社伊藤超短波などでもセミナー活動をしており精力的に鍼灸をひろめようと活動もしております。

陸上競技、ソフトボール、バレーボール、柔道、剣道など様々なスポーツチームの帯同経験多数
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