五十肩と鍼治療:科学的な研究から見えてくること

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こんにちは!筑紫野市二日市にある杏鍼灸整骨院の陣内由彦です。

今回は鍼治療での五十肩に対する効果の可能性をご紹介していきたいと思います。

肩が痛くて腕が上がらない、夜も痛みで眠れない。こういった症状でお悩みではありませんか?

これらは「五十肩」と呼ばれる症状の特徴です。

医学的には「凍結肩」や「癒着性関節包炎」とも呼ばれています。

五十肩は、人口の2%から5%の方に見られると報告されており、その名前の通り、50歳前後の方に多く発症すると言われています。痛みだけでなく、肩の動く範囲が狭くなることで、日常生活に大きな支障をきたすこともあります。

このような症状に対して、多くの患者さんが鍼治療を選択されています。では、鍼治療は五十肩に対して本当に効果が期待できるのでしょうか?今回は、複数の科学的な研究論文をもとに、鍼治療の可能性についてわかりやすくご説明します。

目次

五十肩とはどのような状態なのか

五十肩は、肩の関節を包んでいる袋(関節包)に炎症が起こり、次第に厚く硬くなっていく状態です。これによって肩の動きが制限され、痛みも伴います。

五十肩には通常、3つの段階があると考えられています。

フリージング期(炎症期): この時期は徐々に痛みが強くなり、肩の動きが悪くなっていく段階です。夜間に痛みが強くなることが多いのが特徴です。

フローズン期(凍結した状態): 痛みはやや落ち着いてくるものの、肩の動きがかなり制限される時期です。日常生活での動作に大きな支障が出ることがあります。

ソーイング期緩解期): 少しずつ肩の動きが改善していく段階です。この時期を経て、多くの場合、症状は1年から4年ほどで自然に回復していくと報告されています。

ただし、自然回復を待つ間の痛みや動きの制限は、生活の質を大きく低下させる可能性があるため、適切な治療を受けることが大切です。

鍼治療についての最新の研究結果

では、鍼治療は五十肩に対してどのような効果が期待できるのでしょうか。複数の科学的な研究をまとめた論文から、その可能性を見ていきましょう。

痛みの軽減について

2020年に発表された研究では、13の論文をまとめて分析した結果、鍼治療を受けたグループでは痛みの数値が明らかに低下したことが示されています。痛みの評価には、患者さん自身が痛みの程度を数字で表す「視覚的アナログスケール(VAS)」という方法が使われました。

さらに、2022年の別の研究では、電気刺激を併用した鍼治療(電気鍼)が、通常の鍼治療と比較しても痛みの軽減により効果的である可能性が示されています。

肩の動きの改善について

五十肩の症状の一つである「肩の動きの制限」に対しても、鍼治療の効果が確認されています。

研究によれば、鍼治療を受けた患者さんでは、肩を前に上げる動き(前方挙上)の範囲が改善したという結果が得られています。ただし、肩を横に上げる動き(外転)や外側に回す動き(外旋)については、研究の結果にばらつきがあり、より明確な結論を出すためには、さらなる研究が必要とされています。

肩の機能の回復について

痛みや動きの制限だけでなく、日常生活での肩の使いやすさ(肩の機能)についても、鍼治療の効果が報告されています。

研究では、肩の機能を総合的に評価する「コンスタント・マーレイ・スコア(CMS)」という指標が使われました。その結果、鍼治療を受けたグループでは、肩の機能スコアが改善したことが確認されています。


Constant-Murley Score(CMS)まとめ表

評価項目内容配点(最大)評価方法
① 疼痛(Pain)肩の痛みの強さ15点患者の主観評価(痛みなし=15点)
② 日常生活動作(ADL)腕の使用状況、睡眠、仕事・家事動作、肩をどれだけ使えるか20点患者への質問・動作評価
③ 可動域(ROM)前方挙上、外転、外旋、内旋の可動範囲40点ゴニオメーターなどで実測し点数化
④ 筋力(Strength)肩外転位での筋力(主に三角筋・腱板)25点ダイナモメーターなどで測定し点数化
合計100点満点肩機能を総合評価するスコア

点数のざっくり目安

点数状態の目安
90〜100点ほぼ正常に近い肩機能
70〜89点中等度の機能低下
50〜69点日常生活に支障が出るレベル
〜49点重度の肩機能障害

理学療法と併用する効果

興味深いことに、2024年に発表された研究では、鍼治療を理学療法(リハビリテーション)と組み合わせることで、理学療法だけを行った場合よりも、さらに良い効果が得られる可能性が示されています。

この研究では13の論文が分析され、以下のような結果が報告されています。

痛みの軽減がより顕著に見られた 治療の成功率が高まった 肩を動かせる範囲(可動域)が、能動的にも受動的にも改善した

つまり、鍼治療と理学療法を組み合わせることで、それぞれ単独で行うよりも、患者さんにとってより良い結果が期待できる可能性があるということです。

どのようなツボが使われているのか

鍼治療では、体の特定の場所(ツボ、経穴と呼ばれます)に鍼を刺すことで効果を引き出します。五十肩の治療でよく使われるツボには、以下のようなものがあります。

肩髃(けんぐう): LI15とも表記されます。肩の前上部にあるツボで、13の研究のうち8つの研究で使用されていました。このツボは、肩の関節を包む袋の近くに位置しており、この部分への刺激が痛みの軽減や血流の改善に役立つと考えられています。

肩髎(けんりょう): TB14とも表記されます。肩の後ろ側にあるツボで、6つの研究で使用されていました。五十肩で炎症が起こりやすい部分に位置しており、このツボへの刺激も症状の改善につながる可能性があります。

また、45歳の男性患者さんの症例報告では、「中平(ちゅうへい)」という特別なツボを使った治療が効果的だったことが報告されています。このツボは足にあり、経絡(けいらく)という東洋医学の考え方に基づいて選ばれています。

鍼治療の安全性について

複数の研究を通じて、鍼治療は五十肩の患者さんにとって比較的安全な治療法であると報告されています。重大な副作用の報告は少なく、多くの患者さんが安心して治療を受けられる可能性があります。

ただし、鍼治療を受ける際には、必ず適切な訓練を受けた専門家である鍼灸師による施術を受けることが大切です。

まとめ

これまでに発表された複数の科学的な研究から、鍼治療は五十肩の痛みの軽減、肩の機能の回復、そして肩の動きの改善に対して、一定の効果が期待できる可能性があることがわかっています。

特に以下のような点が示されています。

  • 痛みの軽減効果が確認されている
  • 肩の機能スコアの改善が見られる
  • 前方への肩の動きが改善する傾向がある
  • 理学療法と組み合わせることで、より良い効果が期待できる可能性がある
  • 比較的安全な治療法である

参考文献

  1. Ben-Arie E, Kao PY, Lee YC, Ho WC, Chou LW, Liu HP. The Effectiveness of Acupuncture in the Treatment of Frozen Shoulder: A Systematic Review and Meta-Analysis. Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine. 2020;2020:9790470.
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※ これらの論文は、五十肩に対する鍼治療の効果を調べた科学的な研究です。より詳しい情報をお知りになりたい方は、医療専門家にご相談ください。

投稿者プロフィール

陣内由彦
陣内由彦柔道整復師、鍼灸師
院長  柔道整復師  鍼灸師

福岡医健専門学校卒業

株式会社セイリン様、株式会社伊藤超短波などでもセミナー活動をしており精力的に鍼灸をひろめようと活動もしております。

陸上競技、ソフトボール、バレーボール、柔道、剣道など様々なスポーツチームの帯同経験多数
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