鍼灸治療について
鍼灸治療とは
鍼灸治療とは鍼(はり)や灸(きゅう)を用いて人間が本来もつ自己免疫や自然治癒力を引き出す伝統医学です。
鍼灸術の定義は次のようになっています。
鍼・・・
「鍼術とは、一定の方式に従い、鍼をもって身体表面の一定部位に、接触または穿刺、刺入し、生体に一定の機械的刺激を与え、それによって起こる効果的な生体反応を利用し、生活機能の変調を矯正し、保健および疾病の予防または治療に広く応用する施術である。」 と定義されています。
灸・・・
「灸術とは、一定の方式に従い、艾(もぐさ)を燃焼させ、またはこれに代わる物質を用いて、身体表面の一定部位に温熱的刺激を与え、それによって起る効果的な生体反応を利用し、生活機能の変調を矯正し、保健および疾病の予防または治療に広く応用する施術である。」 と定義されています。
医道の日本社:鍼灸理論東洋療法学校協会編
東洋医学的な考え方では頭から足の先にまで多くのいわゆるツボ(経穴)という物が点在しているといわれ、そのツボを鍼や灸を用いる事で心身の不調を改善していくのが鍼灸術と考えられています。
鍼灸自体の歴史は深く中国では2000年以上前の文献にも鍼灸治療の記載があるといわれています。
使用する鍼
一般的に使われる鍼は髪の毛程度のものすごく細い鍼を使用するため、刺鍼時には痛みを感じる事は少ないです。
当院で使用している鍼は主に0.16mm~0.30mmまでの太さの鍼を使っています。
注射針と比較されることも多いですが注射針は針の中に空洞があるため鍼灸治療で使われる太いことが多いといえます。
鍼灸治療は患者様の体格や体型、場所によって太さや長さなど選んで使用をしていきます。
使用する鍼はディスポーザブルといって使い捨ての鍼を使用しています。
使い捨ての鍼の中でも当院で使用している鍼は個別包装の鍼を使用しています。
始めて当院に来院される場合は目の前で開封するところをお見せするようにしております。
個別包装なので鍼を使用するタイミングで初めて外気に触れるので非常に衛生的だといえます。
以前はオートクレーブ滅菌(高圧滅菌装置)を使って鍼を滅菌していたのが主流でしたが今はほとんどの院がディスポーザブルを使用しているためより安全になったといえるのはないでしょうか。
鍼灸の効果
東洋医学では体全身の調和がとれている事が健康な状態と考え、バランスが崩れていることから症状が生まれると考えます。そのバランスが自然治癒力により調和がとれる状態になる事で病気が治るという考えをしています。
その中に陰陽や五臓(肝・心・脾・肺・腎)や『気・血・水』などの考えがあり、それらのバランスの崩れ方により経穴を選択し症状に合わせ使い分けていきます。
『気』・・・体内に流れるエネルギーの事を指します
『血』・・・血液の概念と重なる部分もあるが、滋養する効果も考えられています
『水』・・・血以外の水分とされるが臓器の潤滑油のような作用も考えられます
経絡とは『気・血』が体内をめぐるための道になりますが、鍼灸治療で刺激するポイントの経穴はこの経絡上の大事な関所のようなポイントになります。
この経絡上の大事なポイントである『経穴』に鍼や灸をすることにより『気・血』の流れを滞りなく流れる状態にします。
簡単に東洋医学的な鍼灸治療の考え方はこのようになります。
鍼灸治療の作用
鍼灸の効果は東洋医学的な効果だけではなく科学的にも少しずつ解明されていってます。
その中でも痛みを抑える効果や血流を促進させる効果などはわかってきています。
体にとっての侵害刺激(=組織を実質的に傷害するか、あるいは傷つける可能性のある刺激)が起こった時、侵害受容器という器官が刺激を感受し痛みとして脳が判断します。
痛覚は他の感覚とは異なり順応しないという性質があるため持続的に痛みは続き、精神的ストレスや筋緊張や食欲不振などの身体には良くない反応を起こします。
このような身体によくない反応を軽減するために痛みを抑える働きが存在します。
これらの働きに作用して鍼灸の鎮痛の作用を起こしていると考えられています。
痛みを抑える効果は大きく分けて全身性と末梢性の効果で分けられています。
全身性の鎮痛
全身性の鎮痛を起こすための機序には下行性痛覚抑制系や内因性オピオイド(モルヒネ様物質)などがあるといわれています。
これらは補完しあいながら鎮痛を行っています。
先ほど書いた侵害刺激を伝えるための神経をAδ線維、C線維というのですがこれと触った感覚がわかるAβ線維が興奮すると下行性痛覚抑制系が賦活され鎮痛作用が起こるといわれます。
この反応は痛みがあるかないかは関与せず起きるといわれています。
鍼刺激はこれらの神経の興奮を痛みを起こさず刺激ができるといわれています。
これにより全身の鎮痛が起きると考えられています。
末梢性の鎮痛
組織を微小損傷を起こす事により細胞内のATP(アデノシン三リン酸)が漏出しその代謝産物であるアデノシンによる作用や末梢組織中のマクロファージから放出される内因性オピオイドによる作用が報告されています。
軸索反射
鍼灸治療は末梢の循環障害に対して効果があるといわれていて、その効果の機序として軸索反射という物が知られています。
軸索反射とは
軸索反射とは、末梢神経の軸索上で起こる反射様現象です。
皮膚に侵害刺激を与えると、刺激部位周辺に紅潮斑(フレア)や浮腫(膨隆)が観察される、紅潮斑(フレア)は軸索反射による皮膚血管の拡張であり、浮腫(膨隆)は血管透過性の亢進に伴う血漿成分の漏出によるものです。
侵害性機械刺激である毫鍼による刺鍼、侵害性熱刺激である有痕灸は、いずれも皮膚に紅潮班(フレア)を生じさせることから、鍼灸による皮膚循環の促進はおもに軸索反射によるものと考えられています。
軸索反射は,以下の機序で生じます。
- 侵害刺激が皮膚の侵害受容器を興奮させる。
- 侵害受容器の興奮は,感覚神経の軸索(侵害受容線維)を介して脊髄後角へと伝わる(順行性伝導)と同時に、軸索の側副枝を介して逆行性に別の侵害受容器へ伝わる(逆行性伝導)。
- 逆行性伝導により興奮した侵害受容器は、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)、サブスタンスP、血管作動性腸管ペプチド(VIP)などの神経ペプチドを放出する。
これらの神経ペプチドはいずれも血管拡張作用を有するが、サブスタンスPには血管透過性を亢進する作用もあり、浮腫(膨隆)の発現に関与します。
なお、軸索反射による炎症反応(血管拡張、浮腫)は神経性炎症と呼ばれます。
軸索反射に関与する侵害受容器はポリモーダル受容器であり、侵害受容線維は主として無髄C線維 (IV 群線維)である、軸索反射は反射様現象であり、反射弓(受容器 →求心路→反射中枢→遠心路→効果器)を有する一般的な反射とは異なります。
医道の日本社:鍼灸理論東洋療法学校協会編から一部改変
さらに鍼刺激は皮膚だけではなく筋肉に刺激をすることで筋肉内の血流も増加させることがわかっています。
これらの効果により発痛物質や疲労物質の除去が考えられます。
当院での鍼治療
当院での鍼治療は経穴を狙うような鍼治療のほかにトリガーポイント鍼治療と鍼通電療法というものをおこなっております。
トリガーポイント鍼治療
トリガーポイントとはその言葉の意味の通り
トリガー=引き金
ポイント=点
なので痛みを引き起こしている点という意味になります。
この点は筋肉の痛みの原因部位になっていて筋の痛みを誘発する点といわれています。
このトリガーポイントは痛みの出ている部位にできている事もありますが、別の部位にできている事もあるのが特徴です。
トリガーポイントは経穴の近くにある事もありますが、経穴とは違った部位にもある事もあります。
押して痛い、いわゆる圧痛点とも多少の違いがあるので特徴もご紹介します。
- 索状硬結に限局する圧痛がある
- 強く圧迫すると痛みや症状が再現される
- 典型的な関連痛がある
- 鍼が刺入されると局所性単収縮が起こる
- 索状硬結において自発放電活動がみられる
というものが特徴とされています。
トリガーポイント鍼治療はこれらのトリガーポイントを狙って刺鍼をしていきます。
先ほどご紹介した血管拡張作用による患部の血液還流量が上昇しトリガーポイントの改善が起こることが多いです。
鍼通電療法
鍼通電療法とは文字通りに刺鍼した鍼に電気を通して行う鍼療法のやり方になります。
鍼通電に使用する機器はセイリン社のピコリナという機器を当院では使用しています。これは従来の機種に比べ細かい設定ができる事が出来て非常に便利になっています。
当院院長の陣内がセイリン社のピコリナの公式講師で普段より使用方法などをセミナーで全国の鍼灸師に伝えている機器になります。
鍼通電療法は痛みに関しての効果は非常に高いとわかってきてる分野になりますが損傷部位の回復を助ける事もわかってきています。
終わりに
鍼灸治療は受けたことない方にとっては怖いやよくわからないものなどネガティブなイメージもあるかもしれません。
しかし、鍼の素材の向上や鍼灸師の技術で痛みなどもほとんどなくなってきています。
さらに鍼灸の大学も増えて日本国内での研究も進みいろんなことが解かってきています。
さらに海外でもヨーロッパやアメリカなどでも広がりいろんな論文も発表され科学的にも解明されてきて効果が立証されてきています。
ご不安に思う方はご気軽にご相談ください。