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こんにちは!筑紫野市二日市にある杏鍼灸整骨院の陣内由彦です。
今回は当院で使っている物理療法のNMES(EMS)の効果の可能性をご紹介していきたいと思います。
手術を受けた後のベッド上安静、骨折で足をギプスで固定している期間、膝や腰の痛みで運動ができないとき――。
こんなとき、私たちの筋肉は驚くほど速く細くなってしまいます。
たった数日間動かないだけでも、筋力が落ちてしまうことがあります。
「運動しなければいけないのはわかっているけれど、体が思うように動かない」
「リハビリをしたいけれど、息が苦しくて続けられない」
――そんなお悩みを持つ方に知っていただきたいのが、NMESという技術です。
NMESは「神経筋電気刺激」の略で、皮膚の上から電気の刺激を流すことで、意識的に力を入れなくても筋肉を動かすことができる方法です。
「電気刺激」と聞くと少し怖いイメージがあるかもしれませんが、実は古くからリハビリテーションの現場で使われてきた、安全性の高い治療法なのです。
今回は、この技術が私たちの体にどんな良い影響を与えるのか、最新の研究成果を交えながらできるだけわかりやすくお伝えしたいと思います。
NMESって何?どうやって筋肉を動かすの?
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まず、NMESの仕組みについて簡単にご説明します。
普段、私たちが体を動かすとき、脳から「動け」という命令が神経を通って筋肉に届き、筋肉が縮むことで体が動きます。NMESは、この命令の代わりに、皮膚に貼った電極から電気の刺激を流して、直接筋肉を動かします。
イメージとしては、遠隔操作のスイッチを押すようなものです。あなたが意識的に力を入れなくても、外から刺激を送ることで筋肉が収縮するのです。
「電気が流れるなんて痛そう」と思われるかもしれませんね。
実際には、ピリピリとした感覚はありますが、多くの研究で「軽く感じる程度」のほうが結果が出ています。
痛みを我慢して続ける必要があるものではありませんので、ご安心ください[1]。
最近では、電極がパンツやソックスに組み込まれた製品も開発されていて[2][3]、使い勝手もどんどん良くなっています。
最新研究が明らかにした驚きの事実
2024年に発表された研究では、たった30分間のNMESセッションが、筋肉の中で4,000以上もの遺伝子の働きを変えることがわかりました。遺伝子というのは、私たちの体を作る設計図のようなもので、どの遺伝子が働くかによって、筋肉が強くなったり、エネルギーを作る能力が高まったりします。
さらに驚くべきことに、NMESで変化した遺伝子の約80%が、実際に自分で運動したときに変化する遺伝子と同じだったのです。つまり、電気刺激で筋肉を動かすことは、自分で運動するのとかなり似た効果を体にもたらすということです。
この発見は、「動けないから筋肉が衰えるのは仕方がない」と諦める必要がないかもしれないことを示しています。
どんな人に役立つの?具体的な効果
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手術後や怪我で動けない方へ
骨折でギプス固定をしていたり、手術後で安静が必要だったりするとき、筋肉はとても速く細くなってしまいます。研究によると、たった5日間足を動かさないだけで、太ももの筋肉が3.5%も減ってしまうことがわかっています[4]。
しかし、同じ研究で、動けない期間中にNMESを使った人たちは、筋肉の減少がほとんど見られませんでした。
つまり、NMESは「動けない期間の筋肉の保険」のような役割を果たしてくれる可能性があるのです。
集中治療室(ICU)に入院している重症の患者さんでも、NMESによって筋肉の衰えが軽くなることが報告されています[5]。
高齢の方、筋力低下が気になる方へ
年齢を重ねると、どうしても筋肉は少しずつ減っていきます。これは「サルコペニア」と呼ばれる自然な現象で、30代後半から始まり、60歳を過ぎると加速することが知られています[6]。
筋肉が減ると、転びやすくなったり、日常生活の動作が大変になったりします。「筋トレをしたいけれど、体が思うように動かない」「運動教室に通うのが大変」という方も多いのではないでしょうか。
NMESなら、座ったまま、あるいは横になったままでも筋肉を動かすことができます。研究では、高齢の方でもNMESによって筋肉を強くする遺伝子が活性化されることがわかっています[7]。
興味深いのは、NMESが筋トレと有酸素運動の両方の良い効果を持っているという点です[8]。つまり、筋肉を強くしながら、持久力も高められる可能性があるのです。
心臓や肺の病気で運動が難しい方へ
心不全や慢性閉塞性肺疾患(COPD)といった病気をお持ちの方は、息切れや疲労感が強くて、思うように運動ができないことがあります。「動いた方が良いのはわかっているけれど、すぐに苦しくなってしまう」という悩みを抱えている方も少なくありません。
大規模な研究のまとめ(システマティックレビュー)では、心不全やCOPD、がんなどの病気を持つ方々において、NMESが筋力を改善する効果があることが確認されています[12]。
具体的には、6分間で歩ける距離が40メートルも伸びたという報告があります[12]。これは日常生活の質を大きく改善する可能性がある変化です。
NMESの良いところは、心臓や肺に過度な負担をかけずに筋肉を鍛えられることです。呼吸が苦しくて従来の運動療法が続けられなかった方でも、NMESなら継続できる可能性があります[13]。
血糖値が気になる方、糖尿病の方へ
筋肉は体の中で最も多くの糖分(グルコース)を使う組織です。ですから、筋肉を動かすことは血糖値のコントロールにとても重要なのです。
研究では、NMESによって血糖値が改善されることが報告されています。座ったままの生活が多い方を対象にした研究では、4週間のNMESトレーニング(週3回、1回30分)によって、糖分を処理する能力が良くなったそうです[15]。
2型糖尿病の方を対象にした研究でも、NMES後に血糖値が下がることが確認されています[16]。さらに、脳卒中後の麻痺がある糖尿病の方では、12週間のNMESによってHbA1c(過去1〜2ヶ月の血糖値の平均を示す値)が改善したという報告もあります[17]。
「運動が血糖値に良いのはわかっているけれど、体が思うように動かない」という方にとって、NMESは新しい選択肢になるかもしれません。
血流改善と血栓予防
長い間ベッドで寝ていたり、足を動かせなかったりすると、血液の流れが悪くなり、血の塊(血栓)ができやすくなります。特に足の深い部分にできる「深部静脈血栓症」は、時に命に関わる合併症です。
NMESで筋肉を動かすと、筋肉のポンプ作用によって血液の流れが良くなります。実際の研究では、NMESによって太ももの静脈を流れる血液の速度が最大で1.7倍も速くなることが示されています[2]。
手術を受ける患者さんにおいて、血栓予防の薬とNMESを組み合わせることで、血栓のリスクが下がったという報告もあります[1]。
筋肉は全身に良い影響を与える「臓器」
最近の研究で、筋肉は単に体を動かすだけでなく、様々な物質を分泌して全身の健康に影響を与えていることがわかってきました。これらの物質は「マイオカイン」と呼ばれています[9]。
マイオカインの一つに、インターロイキン6(IL-6)という物質があります。この物質は、炎症を抑えたり、代謝を調節したりする働きがあります[10]。運動すると血液中のIL-6が増えることがわかっていますが、NMESでも同じようにIL-6が分泌される可能性があることが研究で示されています[11]。
つまり、NMESは刺激した部分の筋肉だけでなく、全身の健康に良い影響を与えるかもしれないということです。
使いやすさがどんどん向上している
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以前のNMES機器は、病院で専門家が電極を正確な位置に貼り付ける必要があり、自宅で使うのは大変でした。また、電極が乾いて接触が悪くなったり、皮膚がかぶれたりすることもありました。
しかし、最近では電極が服に組み込まれた製品が開発されています[2][3]。パンツやソックスを履くだけで、電極が正しい位置に当たるようになっていて、洗濯して繰り返し使うこともできます。
ある研究では、服に組み込まれた電極と従来のジェル電極を比較したところ、効果に差がなく、むしろ服タイプの方が使いやすいという結果が出ています[3]。
こうした技術の進歩により、将来的には自宅で気軽にNMESを使える日が来るかもしれません。
気をつけておきたいこと
NMESは安全性の高い技術ですが、いくつか注意点があります。
使えない方・注意が必要な方:
- 心臓ペースメーカーを使っている方
- てんかんをお持ちの方
- 妊娠中の方
- 傷や皮膚に炎症がある部分
その他の注意点:
- 首や胸の前面には電極を貼らない
- 使用前に必ず医師や理学療法士に相談する
- 自己判断で始めず、専門家の指導のもとで行う
また、NMESは筋肉の量を保つのには効果的ですが、筋力を完全に維持できるわけではないことも知っておいてください[4]。筋力は神経系の働きにも関係しているため、可能であれば自分で体を動かす運動と組み合わせるのが理想的です。
従来の運動に代わるもの?それとも補助?
ここで大切なことをお伝えします。NMESは、自分で体を動かせる方にとって、運動の代わりになるものではありません。自分の意志で体を動かせるなら、それが一番良い方法です。
しかし、何らかの理由で十分に運動ができない方、運動したくてもできない方にとって、NMESは貴重な選択肢になります。
- 手術直後でベッドから起き上がれない期間
- 骨折の固定期間中
- 重い心臓病や肺の病気で運動が制限されているとき
- 高齢で筋力が落ちて、思うように体が動かないとき
こうした状況では、NMESが「何もしない」と「運動する」の間を埋める手段として役立つかもしれません。
まとめ
「動けないから筋肉が落ちるのは仕方がない」「もう年だから筋力は戻らない」――そう思っていた方も、NMESという選択肢があることを知っていただけたでしょうか。
最新の研究は、電気刺激で筋肉を動かすことが、自分で運動するのと驚くほど似た効果を体にもたらすことを明らかにしています。4,000以上もの遺伝子が良い方向に動き、筋肉を守り、全身の健康を支える可能性があるのです。
もちろん、すべての人にNMESが適しているわけではありません。また、魔法のように一瞬で効果が出るものでもありません。
継続することが大切です。自分で運動も大事ですよ‼
またなにか怪我に関してやテーピング方法など疑問がある方は気軽にご相談ください。
参考文献
- Ackermann PW, Juthberg R, Flodin J. Unlocking the potential of neuromuscular electrical stimulation: achieving physical activity benefits for all abilities. Front Sports Act Living. 2024;6:1507402.
- Flodin J, Wallenius P, Guo L, Persson NK, Ackermann P. Wearable Neuromuscular Electrical Stimulation on Quadriceps Muscle Can Increase Venous Flow. Ann Biomed Eng. 2023;51(12):2873-2882.
- Comfort, consistency, and efficiency of garments with textile electrodes versus hydrogel electrodes for neuromuscular electrical stimulation in a randomized crossover trial. Sci Rep. 2025;15(1):91452.
- Dirks ML, Wall BT, Snijders T, Ottenbros CL, Verdijk LB, van Loon LJ. Neuromuscular electrical stimulation prevents muscle disuse atrophy during leg immobilization in humans. Acta Physiol (Oxf). 2014;210(3):628-641.
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- Gómez-Bruton A, et al. Neuromuscular Electrical Stimulation: A New Therapeutic Option for Chronic Diseases Based on Contraction-Induced Myokine Secretion. Front Physiol. 2019;10:1463.
- Muñoz-Cánoves P, et al. Interleukin-6 myokine signaling in skeletal muscle: a double-edged sword? FEBS J. 2013;280(17):4131-4148.
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- Joubert M, et al. The Combined Effect of Neuromuscular Electrical Stimulation and Insulin Therapy on Glycated Hemoglobin Concentrations, Lipid Profiles and Hemodynamic Parameters in Patients with Type-2-Diabetes and Hemiplegia Related to Ischemic Stroke: A Pilot Study. Int J Environ Res Public Health. 2021;18(7):3513.
投稿者プロフィール

- 柔道整復師、鍼灸師
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院長 柔道整復師 鍼灸師
福岡医健専門学校卒業
株式会社セイリン様、株式会社伊藤超短波などでもセミナー活動をしており精力的に鍼灸をひろめようと活動もしております。
陸上競技、ソフトボール、バレーボール、柔道、剣道など様々なスポーツチームの帯同経験多数
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