電気鍼治療が神経障害性疼痛に効く理由とは?最新研究からわかってきたこと

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こんにちは!筑紫野市二日市にある杏鍼灸整骨院の陣内由彦です。

皆さんは、神経障害性疼痛という言葉を聞いたことがありますか。
これは、神経そのものが傷ついたり、病気になったりすることで生じる痛みのことです。
たとえば、脳卒中の後遺症、脊髄損傷、帯状疱疹の後に残る痛み、糖尿病による神経のダメージ、抗がん剤治療による痛みなど、さまざまな原因で起こります。

この神経障害性疼痛は、通常の痛み止めではなかなか良くならず、治療が難しいとされています。
そんな中、最近の動物実験を中心とした研究で、電気鍼治療がこの痛みを和らげる可能性があることが分かってきました。
今回は、2025年に発表された最新の論文をもとに、電気鍼治療がどのように痛みを和らげるのか、分かりやすくご紹介していきたいと思います。

目次

神経障害性疼痛ってどんな痛み?

神経障害性疼痛は、普通の痛みとは少し違います。

たとえば、軽く触れただけでも痛みを感じたり、本来なら少しだけ痛いはずの刺激が、我慢できないほど強く感じられたりします。

また、焼けるような痛みや、電気が走るような鋭い痛みとして感じることも多いようです。

このような痛みの原因は、体の末梢神経だけでなく、脳や脊髄といった中枢神経系全体にわたっています。つまり、体の広い範囲で複雑な変化が起きているため、治療がとても難しいのです。

電気鍼治療とは

電気鍼治療は、鍼治療に電気刺激を組み合わせた方法です。皮膚に細い鍼を刺して、そこに弱い電気を流します。一般的には、2Hz~100Hzいう低い周波数の電気刺激が、神経障害性疼痛の緩和に効果的だと考えられています。

多くの研究では、足三里(あしさんり)、崑崙(こんろん)、三陰交(さんいんこう)といった下肢のツボに鍼を刺して治療を行っています。これらは伝統的な東洋医学で古くから使われてきたツボですが、現代の科学でも、その効果が少しずつ明らかになってきています。

電気鍼治療が痛みを和らげる仕組み

最近の動物実験の研究から、電気鍼治療が脳や脊髄のレベルで、さまざまな仕組みを通じて痛みを和らげている可能性が示されています。

主なメカニズムをいくつかご紹介します。

1. 神経伝達物質のバランスを整える

痛みの信号は、神経細胞の間を、神経伝達物質という化学物質を通じて伝わっていきます。電気鍼治療は、この神経伝達物質の放出や受け取り方を調整することで、痛みの信号を抑える可能性があります。

たとえば、セロトニンやノルアドレナリンといった物質は、痛みを抑える働きを持っています。

また、体の中で自然に作られる鎮痛物質である内因性オピオイドペプチド(エンドルフィンなど)も関係していると考えられています。

研究によると、2ヘルツの低周波刺激は、これらの痛みを抑える物質の働きを高める可能性があるようです。

2. 神経の興奮を鎮める

痛みが長く続くと、神経細胞が過剰に興奮して、普段よりも痛みに敏感になってしまうことがあります。これを中枢性感作といいます。電気鍼治療は、この過剰な興奮を鎮め、神経細胞を正常な状態に戻すことで、痛みを和らげる可能性があります。

具体的には、カルシウムを介した信号伝達や、神経細胞のつなぎ目(シナプス)の形の変化を調整することで、痛みの信号が過剰に伝わるのを防ぐと考えられています。

3. 脳内の炎症を抑える

神経が傷つくと、脳や脊髄の中で炎症が起こることがあります。特に、マイクログリアという免疫細胞が活性化して、痛みを引き起こす物質を放出します。研究によると、電気鍼治療は、このマイクログリアの活性化を抑えることで、炎症を鎮め、痛みを和らげる可能性があるようです。

また、電気鍼治療は、抗炎症作用を持つインターロイキン-10という物質を増やし、それがβ-エンドルフィンという鎮痛物質の放出を促すという仕組みも報告されています。

4. 細胞のストレスを軽減する

神経細胞の中には、小胞体というタンパク質を作る場所があります。神経が傷つくと、この小胞体にストレスがかかり、細胞が正常に働かなくなることがあります。これを小胞体ストレスといいます。電気鍼治療は、この小胞体ストレスを軽減することで、神経細胞を保護し、痛みを和らげる可能性が示されています。

5. エネルギー代謝の改善

脳の前頭前野という部分は、痛みの感じ方や気分に関係している重要な場所です。神経障害性疼痛があると、この部分のエネルギー代謝(糖の代謝)が異常に高まることがあります。研究によると、電気鍼治療は、この過剰なエネルギー代謝を抑えることで、痛みを和らげる可能性があるとされています。

実際の効果はどうなの?

多くの動物実験では、電気鍼治療によって痛みが軽減されることが報告されています。たとえば、神経を縛って痛みを起こしたラットに電気鍼治療を行うと、痛みに対する反応が明らかに改善したという報告があります。また、治療の効果は、治療後すぐから現れ、しばらく持続することも分かっています。

日本の研究でも、神経根(神経の根元)に対する電気鍼治療が、腰部脊柱管狭窄症などによる痛みを和らげる可能性が示されています。また、頭痛や脳卒中後の痛みに対しても、鍼灸治療がガイドラインで推奨されるなど、一定の評価を受けています。

まとめ

神経障害性疼痛は、治療が難しい痛みですが、電気鍼治療が、脳や脊髄のレベルでさまざまな仕組みを通じて、痛みを和らげる可能性があることが分かってきました。神経伝達物質のバランスを整えたり、神経の過剰な興奮を鎮めたり、炎症を抑えたりすることで、効果を発揮すると考えられています。

ただし、これらの研究の多くは動物実験に基づいており、人間に対する効果については、まだ十分に確かめられていません。電気鍼治療を検討される場合は、主治医とよく相談し、資格を持った鍼灸師に施術してもらうことが大切です。

神経障害性疼痛でお悩みの方にとって、電気鍼治療が新しい選択肢の一つとなる可能性があります。今後の研究の進展に期待したいですね。

また怪我に関してやテーピング方法など疑問がある方は気軽にご相談ください。


参考文献

  1. Qi P, Li Q, Han M, Cui Y, Zhou X, Sun Z, Ding S, Yu M, Zhang H, Yin H. The analgesic mechanism of electroacupuncture at the central level for neuropathic pain: a review of studies based on animal experiments. Frontiers in Neurology. 2025;16:1587471.
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  3. Kim HW, Kwon YB, Han HJ, Yang IS, Beitz AJ, Lee JH. Mechanisms of electroacupuncture-induced analgesia on neuropathic pain in animal model. Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine. 2013;2013:436913.
  4. Zhang RX, Li A, Liu B, et al. Low frequency electroacupuncture alleviates neuropathic pain by activation of spinal microglial IL-10/β-endorphin pathway. Biomedicine & Pharmacotherapy. 2020;125:109914.
  5. Yang L, Zhang H, Cai Q, Wang P, Chen H, Zhang Y, Dong Y. Potential mechanisms of acupuncture for neuropathic pain based on somatosensory system. Frontiers in Neuroscience. 2022;16:940343.
  6. 日本鍼灸師会. 鍼灸の基礎知識. https://www.harikyu.or.jp/
  7. 厚生労働省. 鍼治療[各種施術・療法]. 統合医療情報発信サイト. https://www.ejim.mhlw.go.jp/
  8. Xu M, Zhang H, Wang Y, et al. Electroacupuncture attenuates neuropathic pain in a rat model of cervical spondylotic radiculopathy. Journal of Pain Research. 2023;16:2389-2403.

投稿者プロフィール

陣内由彦
陣内由彦柔道整復師、鍼灸師
院長  柔道整復師  鍼灸師

福岡医健専門学校卒業

株式会社セイリン様、株式会社伊藤超短波などでもセミナー活動をしており精力的に鍼灸をひろめようと活動もしております。

陸上競技、ソフトボール、バレーボール、柔道、剣道など様々なスポーツチームの帯同経験多数
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