鍼通電療法はなぜ痛みを和らげるの?最新研究が明らかにした体の不思議なメカニズム

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こんにちは!筑紫野市二日市にある杏鍼灸整骨院の陣内です。

今回は鍼灸治療の中でも「鍼通電療法(電気鍼)」について、最新の研究結果をもとに、できるだけ分かりやすくお話ししたいと思います。

電気鍼は杏鍼灸整骨院ではよく行う施術方法になります。

目次

鍼通電療法って何?

鍼通電療法は、鍼を刺した後に鍼に電気を流す治療法です。普通の鍼治療に電気刺激をプラスすることで、より効果的に痛みを和らげることができると言われています。

「電気を流すなんて怖い…」と思われるかもしれませんが、使用する電気はとても弱く、多くの方は心地よい刺激として感じられるといわれます。

ピリピリとした感覚や、軽く筋肉が動くような感覚があることもありますが、痛みを伴うものではありません。

これまでの謎:なぜ効くのか分からなかった

鍼通電療法は、腰痛、肩こり、膝の痛みなど、さまざまな痛みに対して長年使われてきました。多くの患者さんが「楽になった」と実感されているのですが、実は科学的に「なぜ効くのか」というメカニズムは詳しくは解明されていませんでした。

これまでは、脳や脊髄(中枢神経系)に作用して痛みを抑える物質が出る、という説明が中心でした。しかし、最近の研究によって、もっと身近な場所、つまり「痛みを感じている患部そのもの」で起きている変化が明らかになってきたのです。

新しい発見:体の「警備隊」が鎮痛物質を届けている

最新の研究で分かったのは、鍼通電をすると、体の中の「好中球(こうちゅうきゅう)」という細胞が活躍するということです。

好中球って何?

好中球は、白血球の一種で、体の中をパトロールしている「警備隊」のような存在です。普段は細菌やウイルスなどの敵と戦っていますが、実は痛みを和らげる働きもあることが分かってきました。

鍼通電で好中球が集まってくる

鍼に電気を流すと、その刺激によって、痛みのある場所に好中球がたくさん集まってきます。まるで「助けが必要だ!」という信号を受けて、警備隊が現場に駆けつけるようなイメージです。

研究では、鍼通電を行った部位で好中球の数が大幅に増えることが確認されています。普段、血液中を流れている好中球が、電気刺激という「呼びかけ」に反応して、血管の壁を通り抜け、組織の中に入り込んできます。これは「好中球の浸潤(しんじゅん)」と呼ばれる現象です。

興味深いのは、この好中球の増加が、鍼通電をした「その場所」に集中して起こるということです。体全体に散らばるのではなく、ピンポイントで必要な場所に集まってくるのです。これにより、治療した部位で効率よく痛みを和らげることができるのです。

電気刺激の強さと時間が重要

また、この好中球の集まり方は、電気刺激の強さや時間によって変わることも分かっています。

刺激の強さについて 研究では、低周波(2Hz程度)の電気刺激が、好中球を効果的に集めるのに適していることが示されています。これは、筋肉がゆっくりとリズミカルに収縮するような、比較的穏やかな刺激です。強すぎる刺激は逆効果になる可能性があるため、適度な強さが大切なのです。

患者さんが「心地よい」「少しピリピリする」程度の刺激が、ちょうど良い強さであることが多いです。痛みを感じるほど強い刺激は必要ありません。

刺激の時間について 鍼通電の時間も重要な要素です。研究では、一般的に20〜30分程度の刺激が用いられます。この時間内に、好中球が血管から組織へと移動し、β-エンドルフィンを放出するプロセスが進んでいきます。

短すぎると十分な数の好中球が集まらず、長すぎても効果が頭打ちになることが分かっています。適切な時間で治療を行うことで、最大限の鎮痛効果が得られるのです。

個人差も考慮する必要がある ただし、最適な刺激の強さや時間には個人差があります。痛みの種類や程度、体質によっても変わってきます。そのため、施術者は患者さん一人ひとりの状態を見ながら、最適な条件を調整していくことが大切です。

好中球が「痛み止め」を放出する

そして、集まってきた好中球は、「β-エンドルフィン(ベータ・エンドルフィン)」という物質を放出します。この β-エンドルフィンこそが、天然の痛み止めなのです。

β-エンドルフィンって何がすごいの?

β-エンドルフィンは、体の中で作られる「内因性オピオイド」という物質の一つです。「オピオイド」と聞くと、モルヒネのような強力な鎮痛薬を思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれません。実は、β-エンドルフィンも似たような仕組みで痛みを抑えてくれるのです。

体が自分で作る「痛み止め」

薬として飲むモルヒネと違って、β-エンドルフィンは体が自分で作り出す物質です。ですから、副作用の心配が少なく、とても安全に痛みを和らげることができます。

痛みのある場所で直接働く

今回の研究で特に注目すべきなのは、この β-エンドルフィンが「痛みを感じている患部そのもの」で働いているということです。脳から指令が来るのを待つのではなく、その場所で直接、痛みの信号を抑えてくれるのです。

研究で確認されたこと

この研究では、実験によって以下のことが確認されました

1. 好中球がいないと効果が減る 好中球の働きを抑えた状態で鍼通電をすると、痛みを和らげる効果が大幅に減少しました。つまり、好中球がいないと、鍼通電の効果が十分に発揮されないということです。

2. β-エンドルフィンが実際に増える 鍼通電をした部位では、β-エンドルフィンの量が実際に増えていることが確認されました。

3. β-エンドルフィンの働きを邪魔すると効果が消える β-エンドルフィンの受け皿(受容体)をブロックすると、鍼通電の鎮痛効果がなくなりました。これは、β-エンドルフィンが確かに痛みを抑える主役であることを示しています。

患者さんにとってどんな意味があるの?

この研究は鍼を受診される方にとって、いくつかの希望をもたらしてくれます。

より効果的な治療への道

鍼通電がどのように働くかが分かれば、より効果的な治療法を開発できる可能性があります。たとえば、どのくらいの強さで、どのくらいの時間電気を流すのが最適か、といったことがより科学的に決められるようになるかもしれません。

薬に頼らない痛みのコントロール

慢性的な痛みで悩んでいる方の中には、痛み止めの薬を長期間飲み続けることに不安を感じている方も多いと思います。鍼通電療法は、体が本来持っている痛みを和らげる力を引き出す方法です。薬の量を減らしたり、薬との併用で相乗効果を得たりする選択肢として期待できます。

これらは頭痛などの痛みに対しての効果などで期待をされています。

安全性の高い治療法

体の中にもともとある仕組みを利用しているので、副作用のリスクが低いのも大きな魅力です。適切に行えば、安全に痛みのコントロールができる方法なのです。

まとめ

鍼通電療法は、長い歴史を持つ伝統的な治療法ですが、最新の科学研究によって、その効果のメカニズムが少しずつ明らかになってきています。

今回ご紹介した研究では、体の中の「好中球」という細胞が、痛みのある場所に集まって、天然の痛み止めである「β-エンドルフィン」を放出することで、痛みを和らげていることが分かりました。

これは、鍼通電が単なる気休めではなく、体の中で実際に起きている変化に基づいた、科学的な根拠のある治療法であることを示しています。

痛みで悩んでいる方にとって、治療の選択肢が増えることは、とても心強いことだと思います。もし興味を持たれたら、ぜひ専門の鍼灸師に相談してみてください。

皆さんの痛みが少しでも和らぎ、快適な毎日を過ごせるようになることを心から願っています。


参考文献

この記事は以下の科学論文の内容をもとに作成しました:

“Local analgesia of electroacupuncture is mediated by the recruitment of neutrophils and released β-endorphins”

掲載誌:PMC (PubMed Central)
論文URL:https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10436362/

この研究では、鍼通電療法が痛みを和らげるメカニズムについて、好中球とβ-エンドルフィンの役割を科学的に解明しています。


この記事は科学論文の内容を一般の方向けに分かりやすく解説したものです。実際の治療については、必ず医療専門家にご相談ください。

投稿者プロフィール

陣内由彦
陣内由彦柔道整復師、鍼灸師
院長  柔道整復師  鍼灸師

福岡医健専門学校卒業

株式会社セイリン様、株式会社伊藤超短波などでもセミナー活動をしており精力的に鍼灸をひろめようと活動もしております。

陸上競技、ソフトボール、バレーボール、柔道、剣道など様々なスポーツチームの帯同経験多数
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