前十字靭帯損傷とは

スポーツを楽しんでいる方にとって、膝のケガは大きな心配事の一つかもしれません。

特に「前十字靭帯(ぜんじゅうじじんたい)」という膝の中にある靭帯の損傷は、多くのアスリートが経験する代表的なスポーツ外傷として知られています。

前十字靭帯損傷について、できるだけわかりやすくお伝えしていきたいと思います。

リハビリなどの際はご相談ください。

前十字靭帯ってどんなもの?

前十字靭帯は、英語で「ACL(Anterior Cruciate Ligament)」と呼ばれることも多い靭帯です。膝の関節の中にあって、太ももの骨(大腿骨:だいたいこつ)とすねの骨(脛骨:けいこつ)をしっかりとつないでいます。

長さは約35ミリメートル、太さは約11ミリメートル程度で、膝関節の安定性を保つとても大切な役割を担っています。具体的には、膝が前にずれたり、ねじれたりしないように支えてくれているんですね。

前十字靭帯は、実は二つの線維束(せんいそく)から構成されていることが分かっています。「前内側線維束(ぜんないそくせんいそく)」と「後外側線維束(こうがいそくせんいそく)」という二つの部分があり、膝の角度によってそれぞれが異なる働きをしながら、膝全体を安定させています。

この作りがより強い靭帯を作っています。

バレーボールやバスケットボール、サッカーなどで素早く動いたり、ジャンプしたりするとき、膝がしっかりと安定しているのは、この前十字靭帯のおかげと言えるでしょう。

どんなときに損傷するの?

前十字靭帯損傷の中でも最も多い受傷の仕方は、膝を内側に捻ったときに起こるもので、ラグビーでタックルを外側から受けたり、ストップ動作、方向転換といった速い動きの際に受傷するケースが多くなっています。

実は、前十字靭帯損傷の70%以上は、誰かとぶつかったわけではなく、自分の動作の中で起こる「非接触型損傷」だと報告されています。

例えば、バスケットボールでジャンプして着地したとき、サッカーで急に方向を変えようとしたとき、スキーで転びそうになったときなどです。

受傷時には体内で「ブチッ」という音がすることが多く、その直後は歩くことができる場合もありますが、翌日には膝に血液が溜まって歩行が困難になることがあります。

主な症状としては、次のようなものが挙げられます。

  • 膝の痛み
  • 膝の腫れ(受傷後数時間以内に現れることが多い)
  • 膝のぐらつき感、不安定感
  • 膝が「がくっ」と外れるような感覚(膝崩れ)
  • 膝の曲げ伸ばしがしにくくなる

特に膝崩れという症状は、前十字靭帯損傷に特徴的なもので、急な方向転換やジャンプの着地のときに膝がずれてしまう現象です。これが何度も繰り返されると、膝の中の半月板や軟骨も傷んでくる可能性があります。

女性の方がリスクが高い?

研究によると、女性は男性に比べて2〜4倍、前十字靭帯損傷が多いことが報告されています。

理由としては、膝関節の形や大きさの違い、筋力のバランス、ホルモンの影響などが考えられているようです。

特に女性の狭い膝関節の溝は靭帯に圧迫を与える可能性があり、また靭帯自体が小さいと引っ張りに対する強さが低い可能性があります。

さらに、女性の方が大腿四頭筋(だいたいしとうきん:太ももの前側の筋肉)の筋力が弱い傾向にあることも、リスク要因の一つと考えられています。

ただし、筋力や身体の動かし方は改善できるものですので、適切なトレーニングで予防につなげることができます。

実際、神経筋トレーニング(しんけいきんトレーニング)と呼ばれる、筋肉と神経の協調性を高めるトレーニングによって、女性アスリートの前十字靭帯損傷の発生率を大きく減らせることが報告されています。

診断はどうやってするの?

整形外科を受診すると、まず医師が膝の状態を詳しく診察します。いくつかの特別な検査方法があって、「ラックマンテスト」や「前方引き出しテスト」といった手技で、膝の安定性を確認していきます。

実際に杏鍼灸整骨院に受傷直後に来院された前十字靭帯断裂の方の動画です。

画像検査としては、MRIがとても有効です。MRIによる前十字靭帯損傷の診断の感度は87%、特異度は91%と高く、非常に有効な検査とされています。

MRIでは靭帯だけでなく、半月板(はんげつばん)という膝のクッションの役割をする組織や、軟骨の損傷も一緒に確認できます。

前十字靭帯損傷では、半月板や軟骨を同時に傷めていることも少なくありません。半月板は大腿骨と脛骨の間にあって、クッションの役割と膝を安定させる役割を持っている大切な組織です。

前十字靭帯を損傷するときに一緒に傷めることが多く、適切な治療が必要になります。

ですので杏鍼灸整骨院では前十字靭帯断裂や損傷が疑われた場合専門機関に紹介をさせて頂きます

治療はどうするの?

前十字靭帯の治療方法には、大きく分けて「保存療法(手術をしない方法)」と「手術療法」があります。

保存療法について

前十字靭帯は関節の中にある靭帯なので血流が乏しく、一度切れてしまうと自然に治る可能性はほとんどないと考えられています。

ただし、日常生活レベルであれば、膝周りの筋肉を鍛えることで、ある程度の活動は可能になることもあります。

保存療法では、膝を固定するサポーターや装具を使いながら、リハビリテーションで筋力を強化していきます。痛みや腫れが落ち着いてきたら、徐々に関節の動きを良くする練習や、筋力トレーニングを進めていくことになります。

しかし、スポーツ活動を継続するのであれば靭帯の再建手術が必要とされています。切れた前十字靭帯が自然に癒合することはなく、永続的に膝の不安定性と不安感が残るため、一般的にスポーツ復帰を目標とした場合、保存療法では十分な効果が得られないとされています。

高齢の方や、損傷の程度が軽い方であれば、装具療法などで様子を見るケースもありますが、手術なしには靭帯の機能は改善しません。不安定さが残ったり、膝崩れが繰り返したりする可能性があります。

kyuro装具などの特殊な装具を用いて保存する方法も選択肢として増えてきているそうです。

手術療法について

手術では、自分の体の別の部分から腱(けん)を取ってきて、それを新しい靭帯として使う方法が一般的です。

この方法を「自家腱移植術(じかけんいしょくじゅつ)」と呼びます。

使用する腱の種類

移植に使う腱には、主に三つの選択肢があります。

1. ハムストリング腱(STG法)

最も一般的に使われるのが、膝の内側にある「膝屈筋腱(しつくっきんけん)」という膝を曲げるための腱の一部です。具体的には、半腱様筋腱(はんけんようきんけん)や薄筋腱(はっきんけん)という二つの腱を使用します。

この方法の利点は、手術の傷が比較的小さく(3〜4センチメートル程度)、大腿四頭筋の回復が早いことです。

また、術後1年未満での復帰はACL再建術後患者のACL再受傷危険性を3.4倍増加させるという研究もあります。復帰を急ぐあまり、恐怖心を抱えたまま競技に戻ることは、実際に再受傷のリスクを高めてしまう可能性があるのです。

このような心理的な問題に対しては、医療スタッフとの十分なコミュニケーションや、段階的な復帰プログラムを通して、自信を取り戻していくことが大切です。

ただし、採取した腱は、正常の前十字靭帯と同じような二つの線維束を再現するために、通常は4〜6重に折りたたんで使用します。

この腱を取っても膝への影響は少なく、リハビリテーションを行えば筋力は回復していきます

女性の方は男性に比べて大腿四頭筋の筋力が弱い傾向があり、次に説明する骨付き膝蓋腱を用いた再建術では採取部位の痛みが残りやすいため、ハムストリング腱を用いた再建術が第一選択になることが多いようです。

2. 骨付き膝蓋腱(BTB法)

膝蓋腱(しつがいけん)は、膝のお皿(膝蓋骨:しつがいこつ)の下にある腱で、その中央部分の幅(約1センチメートル)を、上下の骨を含めて採取して使用します。この方法を「BTB(Bone-Tendon-Bone:骨-腱-骨)法」と呼びます。

BTB法の最大のメリットは、靭帯の強度が高いことです。骨付きで採取するため、移植後に骨同士がくっつきやすく、頑強な靭帯が作られやすいという特徴があります。そのため、アメリカンフットボールや柔道など、強い接触が求められる競技を行っている方には推奨される方法です。

一方、デメリットとしては、ハムストリング腱と比べて手術の侵襲(しんしゅう:体へのダメージ)が大きく、膝の前面に痛みが残りやすいことが挙げられます。また、術後の膝伸展筋力(しんてんきんりょく:膝を伸ばす力)の低下が懸念されます。

3. 大腿四頭筋腱(QT法)

膝蓋骨の上にある大腿四頭筋腱(だいたいしとうきんけん)の一部を使う方法です。腱の部分だけでなく、膝蓋骨に付着する骨の一部も一緒に採取して移植腱として用いることもあります(QTB法)。

この方法は2014年以降、使用頻度が増加しており、近年注目されている選択肢です。その理由の一つは、採取部位での痛みや動きの制限が少ないとされているためです。また、骨格的に未熟な小児においても、ハムストリング腱よりも移植腱として優れている可能性があると言われています。

ただし、大腿四頭筋腱を使った再建術は、他の方法と比べて長期的なデータがまだ十分に蓄積されていないという側面もあります。

手術の実際

手術は内視鏡(カメラ)を使って行われることが多く、体への負担を最小限に抑えながら、正確に靭帯を再建していきます。骨に穴(骨孔:こっこう)を開けて、正常の前十字靭帯と同じ位置になるように移植腱を通し、靭帯の代わりとなるスジを作ります。

手術で最も重要なのは、前十字靭帯が本来付着している位置に正確に穴を開けることです。たった2〜3ミリメートルでも穴の位置がずれると、前十字靭帯の機能はかなり低下してしまい、機能的な靭帯を取り戻すことが難しくなります。

このため、手術をしても膝の安定性が取り戻せないということになり、二次的に半月板を損傷したり、さらに進行すると変形性関節症に至ることもあります。

前十字靭帯の再建は非常に厳密な手技が求められる手術と言えます。

移植腱の固定には、専用の固定材料(医療用プラスチックまたは金属)を使用します。大腿骨側では、スクリューをねじ込んで固定する方法や、ボタン状の器具で引っかける方法があります。脛骨側も同様に、スクリューで固定する場合と、小さいプレートとスクリューを使って適切な緊張度で固定する方法があります。

骨と腱が生着するまでに3ヶ月程度、しっかり強度が得られるまで6ヶ月前後を要すると言われています。

新しい治療法:一次修復術

最近では、受傷後1ヶ月以内で靭帯の損傷が軽度の場合、厳密なリハビリテーションに同意できる方に対して、自分の腱を採取せず、骨に穴も開けない「前十字靭帯一次修復術」という方法も行われるようになってきています。これは、切れた靭帯を縫い合わせて修復する方法で、条件が合えば選択肢の一つとなります。

半月板損傷の合併処置

前十字靭帯損傷には、しばしば膝のクッションとして機能する半月板の損傷を合併します。同時に損傷する場合と、前十字靭帯の機能不全がある不安定な状態で運動をすることによって二次的に損傷する場合があります。

半月板は血行が乏しいために、一度切れてしまうと縫っても治癒しないことが多いので、症状があるときは部分的にこれを切除せざるを得ないことがあります。しかし、切除を行うと大腿骨、脛骨の表面の軟骨が傷つきやすくなるので、できれば温存しておきたいものです。半月板は取ってしまえばいいというものではないのです。

繰り返しひっかかり感や痛みの原因となっている場合は、靱帯再建時に同時に手術を行います。半月板損傷を合併している場合は、半月板縫合術または切除術を行うことになります。

前十字靭帯断裂+内側側副靭帯断裂+内側半月板損傷の合併症を不幸の三徴候(Unhappy Triad)などと言ったりもします。

入院期間と麻酔

傷はすねの内側に3〜4センチメートルほどで、入院期間は約1週間程度が一般的です。ただし、患者さんの状況によっては、最短で4日程度で退院できる場合もあります。

麻酔は、全身麻酔と下半身麻酔を併用して行うことが一般的です。術後の痛みのコントロールのために硬膜外麻酔(こうまくがいますい)といって、痛み止めの細い管を腰に留置しておくこともあります。また、神経ブロックやi.v.PCA(経静脈的自己調整鎮痛法)を併用することもあります。

リハビリテーションの大切さ

手術をしてもしなくても、リハビリテーションはとても大切です。前十字靭帯再建術のリハビリテーションには大切なポイントが大きく分けて三つあります。

一つ目は、移植した腱の固定性が得られるまでの期間に余計な力学的負荷を与えないようにしながら、膝の機能を回復することです。

二つ目は、関節可動域や関節周囲筋力の低下を極力きたさないように保ち続けることです。

そして三つ目は、アスリートとしての運動能力を落とさないことです。

手術前のリハビリ

前十字靭帯を損傷すると、膝の腫れや痛みが生じて歩行が困難になることがあります。

診断を受けてから速やかにリハビリテーションを開始し、膝の機能回復を目指します。

手術前に膝周囲の筋力を維持・向上させることで、術後の経過が良好になります。筋力トレーニングを含む6週間の術前理学療法により筋力が高い値となることが報告されています。

また、術前に膝関節の完全伸展(膝をまっすぐ伸ばすこと)を確保することが重要とされています。

膝の可動域や筋力が回復して、通常の歩行ができるようになってから手術を行うのが理想的です。

手術後のリハビリ

手術後は、理学療法士と一緒に手術した膝のリハビリテーションを行います。また、健康な側の筋力強化トレーニングも行います。

早期のリハビリ(術後〜2週間)

手術直後は、膝の腫れも強いため「軟性装具」を装着します。腫れが引いた1週間ほど経った頃から「硬性装具」に変更します。

前十字靭帯の再建のみであれば、術後直後から痛みに応じて松葉杖を使用した荷重(体重をかけること)が許可されます。手術時には太ももの辺りに止血バンドを使用することで、痺れが1〜2日残ることがありますが、通常は問題ありません。

この時期のリハビリでは、移植腱に負担がかからないように特別な配慮をしながら、大腿四頭筋の強化を行います。例えば、脛骨の前面を支点として体幹を後ろに傾けて行う運動など、移植腱に剪断力(せんだんりょく:ずれる力)がかからない方法で安全に筋力トレーニングができます。

中期のリハビリ(術後2週間〜3ヶ月)

手術後の2〜3週間から、装具を着けて全体重をかけた歩行を開始します。個人差はありますが、術後4〜6週間程度で通常歩行が獲得されます。半月板などを同時に処置をした場合は、処置をした内容にもよりますが6〜8週間程度で通常歩行が可能になります。

この時期からは、体重負荷が少ない運動から始めます。これには水中歩行、バタ足、クロール、平泳ぎ、フィットネス用バイクなどが含まれます。水中での運動は、膝への負担を軽減しながら筋力を強化できる優れた方法です。

また、膝関節は動かさなくても、股関節周囲筋群や健側の下肢筋力など複合的なトレーニングを行える運動も取り入れていきます。このように、患側の膝にさえ負担をかけなければ、その他の部分のトレーニングを早期から始めることができます。

術後1ヶ月ほど、膝が伸びにくい、曲がりにくいなどの可動域制限が起こることがあります。決められた通りのリハビリテーションをしっかりやることが大切です。

移植した腱が負担に耐えられるようになるまでは3カ月ほどかかるため、それまでは無理な運動は避けます。

後期のリハビリ(術後3ヶ月〜6ヶ月)

3ヶ月以降、ジョギングやジャンプなどのスポーツ動作を開始していきます。この時期には、より実践的な運動が加わってきます。

例えば、シザーズジャンプという運動があります。その場でジャンプをして、膝の屈曲と股関節の屈曲を意識して着地する運動です。始める当初はショック吸収のため、マットの上で行うなど、膝への負担を軽減させながら行います。

さらに慣れてくると、ホッピングという運動に変えて、レベルを上げていきます。この際も、膝関節と股関節、そして足関節を十分に屈曲し、ショック吸収をしつつ着地します。

応用編として、バランスディスクに乗ったままキャッチボールを行うなど、より実践的な運動も取り入れていきます。

スポーツ復帰期(術後6ヶ月〜1年)

手術後、きめ細かな術後リハビリ指導によって、術後6〜9ヶ月でスポーツ復帰を果たすことが可能とされています。一般的には、術後8〜10ヶ月程度が競技復帰の目安となります。

ただし、「手術から6ヶ月で復帰OK」と単純に考えるのは危険です。近年は「時間より機能に基づく復帰判断」が主流になっています。

スポーツ復帰の基準としては、次のような評価を通過することが望まれます。

  • 筋力測定で健康な側の80〜90%程度の回復(最も重要な基準の一つです)
  • 片脚ジャンプテストなどで左右差10%未満
  • 膝の痛みがないこと
  • 膝関節の可動域が十分に回復していること
  • 動作能力(ランニング、カッティング、減速、ピボット動作など)が十分であること

筋力に関しては、健側の80〜90%程度の回復がスポーツ復帰に望ましいと言われています。術後6か月で60%弱の患者が健側比85%の筋力へ回復し、さらに85%以上の筋力を回復した患者のうち50%が6ヶ月以内に競技復帰したと報告されています。そのため、練習や試合でも問題なくプレーするためには、筋力の回復がとても重要になります。

最終的には、医師と理学療法士やトレーナーと復帰時期を決定していきます。許可されていないトレーニングをしたり、急に運動の強度を上げたりすることは再断裂のリスクになるので避けるようにしてください。

手術後6ヶ月の時点では筋力は健康な足と比較して80〜90%程度の回復であることが多く、6ヶ月〜1年までは再び断裂しないよう注意が必要です。実際、再断裂リスクは術後2年以内が最も高いため、競技復帰後も継続的な予防トレーニングが推奨されます。

リハビリでは、ただ膝だけを鍛えるのではなく、体全体の動かし方、バランス感覚、競技に必要な動作の練習なども含めて、総合的に進めていくことが大切になります。

日常生活への復帰

日常生活への復帰については、活動内容によって時期が異なります。

車の運転: 手術をした足に完全に体重がかけられるようになるまで運転は控える必要があります。ただし、左膝を手術した場合は、アクセルやブレーキ操作がないため、オートマ車であれば術後4週間程度で乗車が許可されることが多いです。

正座: 深く曲げる動作は再建した靭帯に負担をかけます。よって術後の初期は行わないでください。医師の指示を待って開始しますが、術後5〜6ヶ月程度で制限なく行えるようになります。

復職: 術後早期は、松葉杖での歩行で荷重を制限している状態が続くため、デスクワークを中心にお仕事をしていただくようにお願いしています。松葉杖が外れて通常歩行が獲得できたのちに、外回りなどのお仕事への復帰が許可されます。重いものを持ったり、繰り返し階段を使うなどのお仕事内容の場合は、リハビリでしっかりとした片脚の筋力(片脚スクワットなど)を獲得してから復職が許可されます。

スポーツ復帰を妨げる要因

研究によると、前十字靭帯再建術後、術後1年でのスポーツ復帰率は33〜92%とされ、競技レベルが比較的高いアスリートでも44%の選手は損傷前のレベルでのスポーツ復帰ができていないと報告されています。

きちんとしたリハビリが重要だとわかる数字ですね。

スポーツ復帰を遅らせる要因として、主に次のようなものが挙げられます。

1. 疼痛(とうつう:痛み)

スポーツ活動時の膝関節痛で代表的なものは膝前面痛です。BTB再建術とST再建術(ハムストリング腱を使った再建術)の膝前面痛の有無については多くの報告がありますが、特にBTB再建術では疼痛の発生率が高いと言われています。

復帰不可の原因として、疼痛が28%を占めるという報告もあり、痛みのコントロールは重要な課題です。

2. 動作不良

ランニング、カッティング、減速、ピボット動作が困難といった動作不良も、スポーツ復帰を妨げる大きな要因です。動作不良を起こさないためには、健側と患側の筋力差をなくすことが大切であり、そのためには術前からの筋力向上を心がけることが推奨されています。

3. 再受傷への恐怖感

「再び前十字靭帯断裂を引き起こしてしまうのではないか」という恐怖心を含む心理的要因も、スポーツ復帰を阻害する大きな要因です。

研究によると、再建術後のスポーツ復帰した患者のうち20%が再受傷の恐怖により、17.8%が膝関節の不安定性と痛みにより同レベルには復帰しなかったと報告されています。復帰不可の原因として、再受傷の恐怖が27%を占めるというデータもあります。

放っておくとどうなるの?

ではたまに手術もリハビリもしないという選択肢をとる方がおられます。どうなるか一般的な話をご紹介します。

適切な治療を受けずに放置すると、半月板損傷や軟骨損傷を引き起こし、慢性的な痛みや腫れが出現する可能性があります。さらに、罹患期間が2年以上続くと有意に軟骨損傷の範囲と半月板損傷の割合が増大すると言われています。

そのため、近年では、2次的に生じる半月板損傷や軟骨損傷、将来的な変形性膝関節症への進行が問題視されており、再建手術による機能回復が年齢やスポーツレベルを問わず標準的な治療法となっています。

前十字靭帯損傷を放置すると、単に靭帯が切れたままということだけでなく、膝の中の他の大切な構造にも悪影響が及ぶのです。

最悪将来的に人工関節などに繋がるケースもあるそうです。

予防するにはどうしたらいい?

前十字靭帯損傷を予防するためには、適切なトレーニングがとても効果的です。

ユース年代女子サッカー選手を対象に、神経筋トレーニング(教育、ストレッチ、筋力、プライオメトリック、アジリティ)を2年間実施した結果、前十字靭帯損傷発生率は有意に減少したという研究があります。

予防トレーニングの具体的な内容

予防プログラムには、主に次のような要素が含まれます。

1. 筋力トレーニング

特に太ももの前後の筋肉(大腿四頭筋とハムストリングス)をバランスよく鍛えることが大切です。大腿四頭筋だけでなく、ハムストリングスもしっかり鍛えることで、膝関節の安定性が高まります。

また、股関節周囲の筋肉(臀筋群:でんきんぐん)の強化も重要です。股関節と膝関節で主動筋と拮抗筋の筋活動のバランスも膝の外反角度・外反モーメントの増加に関係することが報告されています。

2. 正しい動作の習得

ジャンプの着地、方向転換、急停止などの動作を正しいフォームで行えるように練習することが予防につながります。

特に着地動作では、次のポイントが重要です。

  • 膝が内側に入らないようにする(knee-in:ニーイン)
  • 膝とつま先の向きを揃える
  • 股関節と膝を十分に曲げて衝撃を吸収する
  • 体幹を安定させて着地する

これらの動作を鏡を見ながら練習したり、動画を撮って確認したりすることで、自分の癖を知り、改善していくことができます。

3. 体幹トレーニング

体の中心部(コア)を安定させることで、膝への負担を減らすことができます。プランクやサイドプランクなどの基本的な体幹トレーニングから始めて、徐々にレベルを上げていきます。

体幹が安定すると、ジャンプの着地や方向転換の際に、膝だけに負担が集中することを防げます。

4. バランストレーニング

片足立ちやバランスボードを使った練習で、膝の安定性を高めます。不安定な状態でバランスを保つ練習をすることで、実際のスポーツ動作でも膝をコントロールしやすくなります。

片足立ちができたら、目を閉じて行ったり、ボールをキャッチしながら行ったりするなど、難易度を上げていくことで効果が高まります。

5. プライオメトリックトレーニング

ジャンプ動作を含むトレーニングです。着地の衝撃を適切に吸収する能力を高めることができます。ただし、正しいフォームを習得してから行うことが大切で、間違ったフォームで繰り返すとかえって損傷のリスクを高めてしまう可能性があります。

6. ウォーミングアップの重要性

練習や試合の前には、必ず適切なウォーミングアップを行いましょう。冷えた状態で急激な運動をすると、靭帯や筋肉を傷めやすくなります。ウォーミングアップでは、軽いジョギングや動的ストレッチ、そして競技に特有の動作を含めると効果的です。

予防プログラムの実施

理想的には、週に2〜3回、15〜20分程度の予防プログラムを継続的に行うことが推奨されています。シーズン前だけでなく、シーズン中も継続することで、効果が持続します。

予防トレーニングは、チーム全体で取り組むことで習慣化しやすくなります。コーチや指導者の理解と協力も重要です。

つまり、膝だけでなく、股関節や足首、体幹など、体全体の使い方を意識することが予防につながるんですね。

再建術後のスポーツ復帰率と再受傷

前十字靭帯再建術を受けた後、どのくらいの人がスポーツに復帰できるのでしょうか。

研究によると、アスリートの63%が術前のスポーツレベルに復帰し、44%が競技レベルに復帰したと報告されています。また、別の研究では、術後1年でのスポーツ復帰率は33〜92%とされています。

復帰率にはばらつきがありますが、これは競技レベルや個人の目標によって「復帰」の定義が異なるためと考えられます。

残念ながら復帰せず引退という道を選ばれる方もおられるため100%という数字ではないと思います。

再受傷のリスク

気をつけなければならないのは、再受傷のリスクです。前十字靭帯再建術後に同じ膝または反対側の膝で再受傷する確率は、手術から24ヶ月以内で約20%に達するという報告があります。

特に若い選手ほど再受傷のリスクが高く、25歳未満のアスリートでは、25歳以上のアスリートに比べて再受傷率が有意に高いことが示されています。

また、前述したように、術後1年未満での復帰は再受傷の危険性を3.4倍増加させることから、焦らず十分なリハビリテーションを行うことの重要性が分かります。

長期的な経過

長期的には、前十字靭帯再建術を受けた人の中で変形性膝関節症が発生する可能性があります。再建術後10年の間に42%のアスリートがレントゲンで関節症の変化を認め、10〜15年以内に71%が関節症と診断されたという報告があります。

ただし、レントゲンで変化があっても必ずしも症状が出るわけではありません。また、適切なリハビリテーションと予防トレーニングを継続することで、関節症の進行を遅らせることができる可能性があります。

年齢による治療の違い

前十字靭帯損傷の治療は、年齢によってもアプローチが異なる場合があります。

成長期の子どもの場合

骨格的に未熟な小児・思春期の患者さんの場合、骨の成長に影響を与えないように配慮する必要があります。成長軟骨(せいちょうなんこつ)という、骨が伸びるための大切な部分を傷つけないように、特別な手術方法を選択することがあります。

近年では、小児に対しても早期の前十字靭帯再建術が推奨されるようになってきていますが、成長への影響を最小限にするため、専門的な判断が必要です。

高齢者の場合

高齢の方でも、活動レベルが高く、スポーツや活動的な生活を続けたい方には、手術が検討されます。ただし、日常生活レベルの活動であれば、保存療法で経過を見ることも選択肢の一つとなります。

年齢だけで治療方針を決めるのではなく、その人の活動レベルや希望を考慮して、最適な治療方法を選択することが大切です。

セカンドオピニオンの重要性

前十字靭帯損傷の治療方法は、使用する腱の種類や手術のタイミング、リハビリテーションの進め方など、医療機関によって考え方が異なることがあります。

もし治療方針に不安や疑問を感じたら、別の医療機関で意見を聞く「セカンドオピニオン」を受けることも一つの選択肢です。複数の専門医の意見を聞くことで、より納得のいく治療を選択できるかもしれません。

セカンドオピニオンは決して最初の医師への不信感を示すものではなく、より良い治療を受けるための権利です。遠慮せずに相談してみてください。

まとめ

前十字靭帯損傷は、スポーツをする方にとって大きな問題となる可能性があるケガです。しかし、適切な診断と治療、そして丁寧なリハビリテーションを行うことで、多くの方が競技に復帰できています。

治療には保存療法と手術療法があり、どちらを選択するかは、年齢、活動レベル、損傷の程度、個人の希望などを総合的に考えて決定します。手術を選択した場合も、使用する腱の種類にはいくつかの選択肢があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。

リハビリテーションは、術前から術後まで、長期にわたって継続することが大切です。単に筋力を回復させるだけでなく、正しい動作を身につけ、再受傷への恐怖心を克服することも重要な要素となります。

スポーツ復帰の時期は、時間だけでなく、筋力や動作能力などの客観的な評価に基づいて判断することが推奨されています。焦って早期に復帰すると、再受傷のリスクが高まることに注意が必要です。

また、予防トレーニングを継続的に行うことで、前十字靭帯損傷のリスクを減らすことができます。正しい動作の習得、筋力のバランス、体幹の安定性など、総合的なアプローチが効果的です。

もし膝に不安を感じたり、ケガをしてしまったりしたときは、できるだけ早く整形外科を受診することをおすすめします。また、日頃から予防のためのトレーニングを取り入れることで、ケガのリスクを減らすことができるかもしれません。


何かございましたら是非気軽にお問い合わせください。